御器谷法律事務所
隣人の迷惑行為と重要事項の説明
判例時報1898号64頁〜72頁
大阪高等裁判所 平成16年12月2日判決 変更(一部確定・一部上告<上告取下げ>)

1. 事案の概要
 Xは平成14年3月10日、不動産業者Y3の仲介によりY1、Y2から中古住宅を2280万円で購入した。同年6月9日、Xが子供とともに同住宅を訪れたところ、西側隣人から「うるさい。」と言われた。
 同月15日に訪れた際も、「あんたのガキうるさいんじゃ。」「前の所有者みたいに追い出したるわ。」などといわれステレオの音量を大きくするなどされたため、警察官を呼ぶ騒ぎとなった。
 同月23日にも同隣人が「うるさいんじゃ。あんたのガキ。」「追い出したるからな。」と大声で怒鳴りステレオの音量を上げ、ホースで水を撒いたので警察官を呼ぶ騒ぎとなった。
 結局、Xは本件住宅に引っ越すことを断念した。
 やむなく、Xは売主Y1、Y2、不動産業者Y3に対し、説明義務違反を根拠に不法行為に基づき売買代金、慰謝料等を請求した。
 1審はいずれの説明義務違反も認めず請求を棄却した。

2. 高等裁判所の判断
(1) 売主の説明義務
 控訴人は控訴人補助参加人に、被控訴人乙山両名は被控訴人不動産会社に、それぞれ本件売買契約の仲介を委託していた。このように契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合、契約当事者の意思としては、重要事項の説明は自らが依頼した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができ、売主本人は原則として買主に対して説明義務を負わないというべきである。
 しかし、売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である。
 (イ)上記一(1)キ(エ)のとおり、被控訴人乙山松夫は、控訴人から本件付記について尋ねられた際、1)本件隣人は、被控訴人乙山松夫が本件建物に引っ越した翌日に「子供がうるさい。黙らせろ。」と苦情を言ってきたこと、2)本件隣人は、平成一二年三月ころにも子供がうるさいと怒り、洗濯物に水をかけたり、泥を投げたこと、3)被控訴人乙山松夫は、本件隣人について自治会長や警察に相談したこと、4)三月三日午前の件(これは、本件不動産のX以前の購入希望者に本件不動産を内覧させた際、本件隣人が「うるさい」と苦情を言い、この契約が流れたことを指す。)について控訴人に説明しなかった。
 また、被控訴人乙山松夫は、本件売買契約締結の直前に三月三日午前の件が発生しているにもかかわらず、上記一(1)キ(ウ)のとおり述べ、控訴人に対し、5)最近は本件隣人との間で全く問題が生じていないという誤信を生じさせたというべきである。
 これらの被控訴人乙山松夫の説明内容に加えて、上記一(1)アで認定した本件不動産の住宅環境、上記第二の三の前提事実(3)及び(9)並びに上記一(1)イで認定した本件隣人の特異な言動、上記第二の三の前提事実(5)のとおり本件不動産の購入希望者の中には本件隣人から苦情を受けて購入を断念した者がいることを考慮すると、被控訴人乙山松夫が控訴人に説明していない上記1)ないし4)の事実及び被控訴人乙山松夫が控訴人に生じさせた上記5)の誤信は、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項に関するものであるというべきである。とりわけ、上記第二の三の前提事実(1)で認定した控訴人の家族構成からすると、上記各事実及び上記誤信は、控訴人にとって関心が高い事項に関するものであるというべきであるし、そのことは、控訴人と同様の家族構成であり、控訴人から近隣の環境や暴走族に関する質問とはいえ、「同じ子供を持つ親として聞いておきたいのですが。」と言われた被控訴人乙山松夫にとっても認識し得たはずである。
 以上によれば、被控訴人乙山松夫は、控訴人に対して上記1)ないし4)の事実を説明せず、かつ上記5)の誤信を生じさせたのであるから、信義則上、売主に求められる説明義務に違反したというべきである。
(2) 不動産業者の説明義務(重要事項の説明)
 ア 被控訴人不動産会社は、宅地建物取引業者として、売主たる被控訴人乙山両名の依頼により本件売買契約の仲介を行うに際し、買主たる控訴人に対して、本件売買契約における重要な事項について説明すべき義務を負う。そして、宅地建物取引業法三五条一項は、一定の重要な事項につき、宅地建物取引業差に説明義務を課しているが、宅地建物取引業者が説明義務を負うのは同条所定の事項に限定されるものではなく、宅地建物取引業者は、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を説明している場合には、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である(宅地建物取引業法四七条一項一号参照)。
 イ(ア) 控訴人のように土地建物を家族とともに居住する目的で購入しようとする者が当該建物において平穏に居住することを願うことは当然であるから、当該建物の隣人から迷惑行為を受ける可能性が高く、その程度も著しいなど、当該建物において居住するのに支障を来すおそれのあるような事情がある場合には、そのような事情は当該建物を購入しようとする者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想されるというべきである。
 したがって、居住用不動産の売買の仲介を行おうとする宅地建物取引業者は、当該不動産の隣人について迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うと解するのが相当である。
 ウ 上記一(1)ウ、エ及びカのとおり、被控訴人不動産会社の担当者である金原は、本件売買契約締結以前に、1)本件隣人は少しうるさい人である、2)三月三日午前の件、3)本件隣人が原因で本件建物に波板を付けたことや子供部屋を東側にしたこと、を知っていたし、4)何度も連絡したにもかかわらず、鬼追は控訴人に三月三日午前の件を説明していない様子であると考えていた。また、上記第二の三の前提事実(6)からすると、5)金原は、控訴人が幼い子供を含む家族とともに居住する目的で本件不動産を購入しようとしていることを認識していたと認められる。
 これらの事実からすると、金原は、本件隣人の存在によって控訴人とその家族が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあること、及び三月三日午前の件を控訴人に説明する必要性があることを認識し、そうであるからこそ、鬼追に何度も連絡したり、本件報告書に本件付記を記載してまで買主である控訴人に三月三日午前の件を説明しようとしたと推認できる。
 にもかかわらず、上記一(1)キ(ウ)ないし(オ)のとおり、被控訴人乙山松夫は、控訴人に肝心の三月三日午前の件を説明せず、かえって、最近は本件隣人との間で全く問題が生じていないと誤信させる説明をしているのであるから、このような場合、金原は、売主である被控訴人乙山松夫にとって不利益を及ぼすおそれがあっても、控訴人に対し、三月三日午前の件を説明し、最近は本件隣人との間で全く問題が生じていないとの誤解を与えないようにすべきであったといえる。
 したがって、被控訴人不動産会社は、購入希望者である控訴人に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される三月三日午前の件を説明しなかったといわざるを得ず、被控訴人不動産会社に控訴人に対する説明義務違反が認められる。
(3) 結論
 本件不動産は本件隣人がいない場合の交換価値と比較して、少なくともその20%相当額が減価していると認められる。
 控訴人は被控訴人乙山及び被控訴人不動産会社の説明義務違反によって少なくとも2280万円の20%に相当する456万円の損害を被ったと認められる。


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