御器谷法律事務所

もう一つの独占禁止法

1. 「もう一つの独禁法」とは、
 独占禁止法を概観して気付く点として、独禁法が私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法といういわゆる3本柱を中心として競争秩序上やってはならない禁止ないし規制の対象の行為を特定し、これらに対する行政処分である公取委の排除措置命令や課徴金納付命令等のサンクションを規定していることです。
 独禁法が行政法規であり、且つ取締法規といわれるゆえんです。
 特に独禁法の規制対象で実務上問題となることが多いのが、カルテルや入札談合が顕著であることからも、このような感を強くします。
 この行政法規ないし取締法規としての独禁法が本来の独禁法の姿であるとすれば、この法律のもとにおいては公正且つ自由な競争の促進が目的であり、規制対象は市場そのものであり、そのもとでの事業者や消費者の権利保護は独禁法上直接の保護の対象とならないとの見解もうなづけます。
 しかし、独禁法は、このように市場のみを対象とした取締法規にすぎないものでしょうか。道路交通法は、道路の交通の安全確認のために様々の取締規定を設けており、この法規のもとにおいて権利性を論じることはないのと同様に考えていいのか、という問題につきあたります。
 独禁法は、第7章に「差止請求及び損害賠償」という章を設けて、第24条に不公正な取引方法により著しい損害を被る被害者に差止請求権を認め、第25条は独禁法違反行為により損害を被った被害者に無過失損害賠償請求権を認めています。これらの差止請求権及び損害賠償請求権は、被害者である事業者や消費者の権利保護のために設けられた権利であり、取締法規である独禁法とは明らかにその性格を異にするものであり、いわば「もう一つの独禁法」とも呼ばれる性質のものと考えられます。

2. 「もう一つの独禁法」−その現状は(平成18年夏)
 独禁法に基づく差止請求は、平成13年施行後5年余を経過していますが、未だ一件の認容判決もありません。
 また、独禁法に基づく損害賠償請求は、10数件提起されつつ勝訴判決が殆どない現状にあります。
 折角独禁法に被害者救済のための権利保護規定を設けても、現実には殆どこれらが機能していないのが現実の姿と考えられます。

3. 「もう一つの独禁法」−今、何故?
 私達弁護士としては、独禁法違反事件はカルテルや談合について被疑者や被告人を弁護する形での活動が殆どでした。
 しかし、ここ数年、例えば三光丸事件では不公正な取引方法の一種である優越的地位の濫用に対して独禁法に基づく差止請求権を行使していわばあと一歩までの結論を得るところまでゆきました。
 また、損害賠償請求訴訟では、独禁法第25条のみならず、民法第709条や会社法上の株主代表訴訟等を通して、いくつかの勝訴判決が出現しています。
 独禁法違反事件が、公取委の審判というフィールドから裁判所の新たなフィールドで新たな判断の対象となっています。
 そして、事業者としては、独禁法を戦略法務の一環として利用することもできるでしょうし、又、消費者も団体訴訟等を利用して独禁法違反を問題とする余地もめばえてきています。
 差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を通して、今までの経験の中で、独禁法が裁判所においてもかなり未知の分野であることに気付きます。今後、独禁法違反を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起、遂行する中でさらなる独禁法の理解を深め、権利保護の見地から独占禁止法を駆使し、「もう一つの独占禁止法」の実効をあげるべく尽力したいと考えるものであります。

4. 判決、審判例
岐阜商工信用組合事件−最高裁 昭和52年6月20日第二小法廷判決
 「独禁法19条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、上告人のいうように同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。」

河内屋対資生堂販売事件−東京地裁 平成12年6月30日判決
 「メーカーや卸売業者が販売政策や販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきことにかんがみると、これらの者が、小売業者に対して、商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けたり、商品の品質管理の方法や陳列方法を指示したりするなどの形態によって販売方法に関する制限を課することは、それが当該商品の販売のためのそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、他の取引先に対しても同等の制限が課されている限り、それ自体としては公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれはなく、一般指定の13にいう相手方の事業活動を『不当に』拘束する条件を付けた取引に当たるものではないと解するのが相当である」
 「化粧品という商品の特性にかんがみれば、ブランドイメージを維持・高揚することが市場における競争力に影響することは自明のことであるから、両販社が対面説明販売という販売方法を採用し、その実効性を確保するために卸売販売を禁止したことにはそれなりの合理性があると考えられ、また、両販社は、他の取引先との間においても本件各チェインストア契約と同一の約定を締結し、時際にも相当数の資生堂化粧品が対面説明販売により小売販売されていたことからすれば、本件各チェインストア契約における対面説明販売義務及び卸売販売の禁止は、一般指定の13にいう相手方の事業活動を『不当に』拘束する条件を付けた取引に当たるということはできない」
 「販売方法に関する制限を課した場合、販売経費の増大を招くことなどから多少とも小売価格が安定する効果が生ずるが、そのような効果が生ずるというだけでは、直ちに販売価格の自由な決定を拘束しているということはできず、本件においては、両販社が対面説明販売義務の条項あるいは卸売販売の禁止の条項そのものを手段として再販売価格を拘束していると認めるに足りる証拠はないから、本件各チェインストア契約における対面説明販売義務及び卸売販売の禁止は、一般指定の12の一に当たるということもできない。」

野村證券事件−最高裁 平成12年7月7日第二小法廷判決
 「・・・しかしながら、株式会社の取締役が、法令又は定款に違反する行為をしたとして、本規定に該当することを理由に損害賠償責任を負うには、右違反行為につき取締役に故意又は過失があることを要するものと解される・・・右事実関係の下においては、代表取締役らが、本件損失補てんを決定し、実施した平成2年3月の時点において、その行為が独占禁止法に違反するとの認識を有するに至らなかったことにはやむを得ない事情があったものというべきであって、右認識を欠いたことにつき過失があったとすることもできないから、本件損失補てんが独占禁止法19条に違反する行為であることをもって、代表取締役らにつき本規定に基づく損害賠償責任を肯認することはできない。」

日本高周波下請事件−富山地裁高岡支部 昭和62年10月15日判決
「本件各下請代金単価の引下げ改定の合意により改定された右単価について書面が作成されず、下請事業者の甲にこれが交付されなかったことが明らかであり、また、下請発注の都度、単価、金額を記載した書面を甲に交付したことを窺わせる証拠もない」
 「下請法3条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が信義則あるいは公序良俗に反するとされるような場合は格別として、直ちに無効(本件各下請代金単価の引下げ改定の合意も含めて)であると解すべきではない。」
 「すなわち下請法は・・・違法状態の存することが判明したときは、その違法状態の具体的かつ妥当な収捨、排除を図るに適した内容の弾力的な措置をとらしめることによって、同法の目的を達することを予定しているのであるから、同法条の趣旨に照らすと、同法3条に違反する行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは、同法の目的に合致するとはいい難いからである」

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