御器谷法律事務所

有価証券報告書に虚偽記載をした者の損害賠償責任

1.法律の規定とその趣旨
 有価証券報告書に虚偽記載をした者の損害賠償責任については、金融商品取引法21条の2に規定があります。
 この規定は、有価証券を購入する投資者が、不実の記載のある有価証券報告書等を参考にした場合、その不実の記載があったことにより不測の損害を負うことになりうるため、このような投資者に対する救済手段を設けたものです。
 この規定以外に、不法行為責任(民法709条)により有価証券報告書作成者の責任を追及して損害賠償を求める方法も考えられますが、この場合には、投資者の側で虚偽記載と損害の因果関係、損害額などを証明しなければならないという実際上の困難があります。

2. どのような場合に損害賠償責任が成立するか?
(1) どのような場合に損害賠償責任が成立するか?
 金融商品取引法21条の2第1項は、次のア〜エの事項を、損害賠償責任成立のための要件としています。
ア 有価証券報告書等の重要な書類に
 1) 重要な事項について虚偽の記載がある
 2) 記載すべき重要な事項の記載が欠けている
 3) 誤解を生じさせないために必要な重要な事項の記載が欠けている
  のいずれかがあること
イ 有価証券報告書等の縦覧期間のうちに当該有価証券を取得したこと
ウ 虚偽の記載や記載が欠けていることが理由で損害が生じたこと
エ 当該有価証券を取得した者が、その取得の際に虚偽記載を知らなかったこと
 以上のア〜エ全てに当てはまる場合には、その会社には損害賠償責任が成立します。
(2) 誰に対して損害賠償請求をできるか?
 金融商品取引法21条の2第1項では、有価証券報告書の提出をした者に対して損害賠償請求ができるとしています。
 この規定により、虚偽記載により損害を受けた投資者は、有価証券報告書を届け出た会社に対して損害賠償請求をでき、会社は無過失責任を負うことになります。
 また、金融商品取引法24条の4、22条1項、21条1項1号、3号により、有価証券報告書の提出をした会社の提出時の役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者をいう)や、有価証券報告書において監査証明を行い、虚偽の記載や欠ける記載のないものとして証明した公認会計士又は監査法人に対しても損害賠償請求をできます。
 ただし、役員等は、虚偽記載の事実を知らず、かつ、相当の注意を払っても虚偽記載を知ることができなかった場合には責任を負いません。また、公認会計士又は監査法人は、虚偽の記載や欠ける記載がないことを証明したことに故意又は過失がない場合には、責任を負いません。(金融商品取引法24条の4、22条2項、21条2項1号、2号)
(3) 損害とは?
ア 損害額の推定規定
 金融商品取引法では、虚偽記載の事実が公表された日以前1年以内に有価証券を取得し、公表日に引き続きその有価証券を取得する投資者が被った損害額について、推定規定を用意しています(金融商品取引法22条の2第2項)。
 その計算は以下のようになります。
(虚偽記載が公表された日以前1ヶ月の市場価格の平均額)− 
(公表日後1ヶ月間の当該有価証券の市場価格の平均額)
つまり、公表日前後各1ヶ月の市場平均価格の差額を損害と計算できるのです。
イ 損害額の上限
 ただし、アの推定規定を使用する場合も、損害額には次の1)2)の各場合に応じて、上限の規定があり、これを超えない範囲で損害が認められることになります(金融商品取引法22条の2第1項、19条1項)。
 1) 損害賠償請求時に株式を保有している場合
        (取得価格)−(損害賠償請求時の市場価額)
 2) 損害賠償請求時に株式をすでに処分している場合
        (取得価格)−(処分価額)
ウ 損害額の推定規定の条件を満たさない場合
 虚偽記載の事実が公表された日以前1年以内に有価証券を取得し、公表日に引き続きその有価証券を取得するという条件を満たさない場合、個別に損害が虚偽記載により発生したこと、損害の金額について証明することになります。

3. 判例
(1) 西武鉄道株主代表訴訟事件一審判決(東京地裁平成20年4月24日)
 西武鉄道株式会社が有価証券報告書上の株式数について虚偽の記載をしていた事件で、株主(または株主であった者)である原告らは、会社、役員およびグループ会社に対して、民法不法行為法上の責任又は旧証券取引法の責任を追及して損害賠償請求を行いました。
 この事件では、裁判所は、不法行為法上の責任を認め、会社、グループ会社、役員らの一部に対して、連帯して損害賠償責任を認めました。
 この事件では、西武鉄道株式が他の株式と交換され、口頭弁論終結時には虚偽記載の公表日の終値の金額より価額が上がっていたことから、保有を続けていた株主については損害が認められませんでした。
 他方で、虚偽記載の公表後に株式を処分した株主については、公表日の終値と処分価格の差額について損害が認められました。
(2) ライブドア機関投資者第一審訴訟(東京地裁平成20年6月13日)
 裁判所は、ライブドアが計上の認められない売上や利益を計上したことが虚偽記載にあたり、この事件を刑事事件として捜査を行っていた検察官が報道機関の記者らに伝達したことを「公表」であると認めて、この前後の差額を金融商品取引法21条の2第2項による推定を経た上で、一定の減額を行い、損害賠償請求を認めました。

 この有価証券報告書に虚偽記載をした者の損害賠償責任につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい
企業法務の法律相談へ

執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ