「正義の女神像」だれに対しても偏見を抱いていないことを示すため目隠しをしています。人種、宗教、政治信念ではなく、裁判の結論は証拠に基づいて決められるのです。そして、その証拠の重みを知るために、はかりを持っています。
御器谷法律事務所

米国知的財産権の最新事情

1 デラウエア州地区地裁、Novo社の成長ホルモン特許を無効にする(8月3日)
※1
 デラウエア州地区地裁は、Novo社(Novo Nordisk Pharmaceuticals)が特許・商標庁への出願に当たり不正行為(inequitable conduct)を行ったため、同社の人間成長ホルモン特許を無効にした。
 本件において、特許・商標庁の抵触審査(interference)でNovo社の発明が優先するとされたため、Bio社(Bio Technology General)の人間成長ホルモン特許が却下された。Bio社は特許・商標庁の決定をデラウエア州地区地裁に控訴した。
 同時の手続きで、Novo社はBio社がNovo社の人間成長ホルモン特許を侵害したと提訴した。Bio社は予測性(anticipation)および不正行為を根拠にNovo社の人間成長ホルモン特許の有効性および実施可能性を挑戦した。
 デラウエア州地区地裁は両方の訴訟でBio社勝訴の判決を下した。つまりNovo社の提訴において、デラウエア州地区地裁は、提示された先行技術(prior art)を引用し、それらのうち少なくとも一つの先行技術がNovo社の特許を予測したと判示し、同社の特許を無効にした。
 なお、Bio社の控訴において、デラウエア州地区地裁は、提示された先行技術およびそれらに関するNovo社の説明を参考にしながら、Novo社が不正行為を行ったと判示した。不正行為の認定は出願人が特許・商標庁に対し正直および誠実に行動する義務を負っていることを根拠にしている。出願人が不正行為を行えば、特許は無効になる。不正行為を認定するため、Bio社はNovo社が特許・商標庁に対して実質的な情報を差し控え、また特許・商標庁を誤解させるため当該実質的な情報が差し控えたことを立証しなければならない。デラウエア州地区地裁は、Novo社が人間成長ホルモン特許の実施可能性(enablement)に関する情報を開示しなかったため、それが不正行為に該当したと判示した。実施可能性要件が定められている特許法第112条は、「明細書には、発明及びその発明を製造し使用する仕方や方法の説明を、その発明の属する技術分野又は最も近い関係にある技術分野の熟練者なら誰でも同じように製造し、使用することができるように、十分に明瞭かつ適切な用語で記載しなければならない」と定めている。本件においてデラウエア州地区地裁は、Novo社が特許・商標庁に対し出願した実験結果の一つを実際に行わなかったと認定した。デラウエア州地区地裁は、この過ちが実質的であり、および特許・商標庁を誤認させるために行われたと認定し、同特許を無効にした。

2 第9巡回裁判所、ファイル共有ソフトウエア流通業者らは使用者の侵害行為の責任を有さないと判示(8月19日)※2
 第9巡回裁判所は、ファイル共有ソフトウエア流通業者ら(peer-to-peer file sharing software distributors)が同ソフトウエアの使用者による著作権侵害行為に対し責任を有さないと判示した。
 原告・ハリウッド大手・MGM社(Metro-Goldwyn-Mayer Studios, Inc.)およびその他の映画会社またレコード会社合計27社はインターネット上でファイルを特定し、また交換することを可能にするソフトウエア流通業者ら数社を提訴した。Grokster、Morpheus、およびKazaaとして知られているこれらのシステムは著作物を交換するため一般的に使用されている。
 被告・Streamcast Networks社はMorpheusソフトウエアを販売し、Grokster社はGroksterソフトウエアを販売し、またSharman Networks社はKazaaを販売している。これらのソフトウエアは中心的な接続点を通さずに使用者を直接的に接続している。
 原告らは、被告らがそれらの事業が正当であると見せかけるためウエブサイトにチャットルームおよびメッセージ・ボードを設けているが、被告らの本業は著作物の不法な複製および流通であると主張し、カリフォルニア州中部地区地裁に提訴した。原告らは、少なくとも1億5千万ドルの損害賠償を請求し、および予備的差止めまた終局的差止め(permanent injunction)を請求した。原告らは、被告らが意図的に侵害行為の手段を使用者に提供しているため、被告らの行為は著作権の寄与侵害(contributory infringement)に該当し、および被告らが使用者の行為を監督する能力を有し、また使用者の侵害行為から利益を得ているため、被告らの行為は代位侵害(vicarious infringement)に該当すると主張した。
 両当事者は略式判決を求めた。カリフォルニア州中部地区地裁は、被告らが同社の商品が著作権侵害のため使用されているという一般的な知識を有しているが、それだけでは寄与侵害または代位侵害が成立しないと判示した。被告らの商品はパブリック・ドメインに存在する商品および著作権者が許可している商品を流通させるためなど、侵害行為に該当しない使用方法もあると判示した。このように考えると被告らの商品は著作権侵害が幾らか行われていると知られているビデオテープ・レコーダーおよびコピー機と同じであると判示した。これに対し、原告らは、被告らの商品が2002年に裁判所の停止命令を受けたファイル共有サービス・Napsterと同じであると主張した。カリフォルニア州中部地区地裁は、被告らが著作権侵害を避けさるため事業を設計し直した可能性があるが、それ自体は違法行為でないと判示した。
 寄与侵害について、第9巡回裁判所は、ファイル共有ソフトウエアがビデオテープ・レコーダーと同様に多くの侵害しない利用方法があると判示した。なお、第9巡回裁判所は、被告らが具体的な侵害行為を合理的に知り、またそれを防止することができたことを原告らは立証しなければならないところ、原告らはそれを立証しなかったと判示した。なお代位侵害について、第9巡回裁判所は、被告らが利用者を監督する権利または能力を有さないと判示した。

3 第9巡回裁判所、Nissan.comを巡る希釈化の主張について再審査を命じる(8月6日)※3
 第9巡回裁判所は、被告・Uzi NissanによるNissan名称の使用が原告・日産自動車の商標を希釈化(dilution)するおそれがあり、最近の最高裁判決を背景に審理裁判所が事件を再審査しなければならないと判示した。なお第9巡回裁判所は、nissan.comのウエブサイトを所有する被告が日産自動車を悪く見せるウエブサイトにリンクすることを差止める命令が違憲であると判示した。
 本件において、被告は、1991年にノース・カロライナ州のコンピューター店・Nissan Computer Corp.を創設した。その三年後、被告はnissan.comのドメイン名を登録した。1999年にnissan.comは自動車関連商品およびサービスを販売していた。
 被告のドメイン名の購入に失敗した後、原告は被告を相手方として商標権侵害、および商標権の希釈化を主張し、カリフォルニア州中部地区地裁に提訴した。原告は米国で販売する自動車の名称を1983年にDatsunからNissanに変更した。
 カリフォルニア州中部地区地裁は、被告のウエブサイトが自動車関係商品およびサービスを含めている限り、被告が原告の商標権を侵害すると判示した。なおカリフォルニア州中部地区地裁は被告がNissan名称を最初に商業的に使用した時がドメイン名を登録した1994年であり、その時に原告のマークは既に有名であったと判示した。さらに第9巡回裁判所は、被告に対して被告のウエブサイトに商業的内容の記載を禁止し、また原告を悪く見せる他のウエブサイトへのリングを禁止する差止めを命じた。両当事者は地裁判決を控訴した。
 控訴審において、第9巡回裁判所は、商標権侵害判決を支持したが、希釈化の判決を覆した。商標権侵害について第9巡回裁判所は、被告がnissan.comのウエブサイトで自動車関連広告を記載することにより消費者の自動車への関心を利用したと判示した。Nissan.comが自動車関連商品及びサービスを取り扱っていなければ、かかる「一時的な混乱」(initial interest confusion)は問題にならないと判示した。しかし、nissan.comが自動車関連ウエブサイトへのリンクを提供しているため、自動車を求めている消費者はこれらのリンクを見るであろうと判示した。消費者が広告をクリックする度に被告がお金を受け取っていたため、被告は消費者の混乱(consumer confusion)により金銭的利益を受けていたと判示した。
 希釈化について、第9巡回裁判所は、被告がNissan名称を最初に商業的に使用した時が1994年でなくNissan Computer Corpを創設した1991年であると判示した。つまり連邦商標希釈化法(Federal Trademark Dilution Act)の下、最初の希釈化の使用は、マークが実際に混乱を生じさせたか否かにかかわらず、商標権者が問題と考える最初の使用のことであると判示した。従って、原告の自動車商標が1991年に有名であったか否かの問題が残ると判示した。連邦商標希釈化法の下、原告の商標が有名になった後に希釈化の使用が始まったということが立証されなければならないと判示した。なお地裁判決後に2003年Moseley v. V Secret Catalogue Inc.事件最高裁判決※4は、連邦商標希釈化法の下、損害のおそれでなく実際の損害が立証されなければならないと判示した。第9巡回裁判所は、地裁が同最高裁判決の影響を検討しなければならないと判示した。
 最後に、第9巡回裁判所は、原告を悪く見せる他のウエブサイトへのリンクを差止める命令を覆した。つまり同差止めが非商業的言論を規制するため、憲法修正第1条に違反すると判示した。被告は言論が被告の事業に影響を及ぼすため、商業的言論であると主張したが、第9巡回裁判所は、言論が商業的か否かを判断するため効果テストを適用したことがないと判示し、被告の主張を却下した。

(問い合わせは、ニューヨーク州弁護士・佐藤 潤(junsato_us@yahoo.com)までお願いします。)

※1 Bio-Technology General Corp. v. Novo Nordisk A/S et al., No. 02-235, 2004 WL 1739722 (D.Del. Aug. 3, 2004); Court Invalidates Novo’s Growth Hormone Patent, 11 No. 10 Andrews Intell. Prop. Litigation Reporter 8 (August 31, 2004).

※2 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. et al. v. Grokster ltd. Et al., Nos. 03-55894, 03-55901 and 03-56236, 2004 WL 1853717 (9th Cir. Aug. 19, 2004).

※3 Nissan Motor Co. et al. v. Nissan Computer Corp. et al., Nos. 02-57148 and 03-55017, 2004 WL 1753289 (9th Cir. Aug. 6, 2004); 9th Cir. Orders Additional Inquiry in Dilution Clam Over Nissan.com, 11 No. 10 Andrews Intell. Prop. Litig. Rep. 9 (August 31, 2004).

※4 537 U.S. 418 (2993).

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