脂肪吸引の失敗
美容整形における脂肪吸引についても従来よりも一般的に行われるようになってきました。それに伴って失敗例も散見されるようになっております。以下、脂肪吸引の失敗が争点となった裁判例を2例ご紹介いたします。
<東京地裁:平成8年2月7日判決>
◆美容整形としての脂肪吸引手術を受けた患者の臀部に凹凸・非対称が生じたことにつき、担当医師に必要以上に多量の脂肪を吸引した過失が認められた事例
(一) 人間の臀部の脂肪の厚みや皮膚の面積には多少の左右差は、本来存在するものであるが、《証拠略》を総合すれば、現在、原告の臀部(及びこれに続く大腿部の一部)には、被告医院での本件各手術を受ける前はなかった、一般的に存在する臀部の左右差を超えた外観上の凹凸・非対称(不均一な皮膚表面と皮膚のたるみ)が存在することを認めることができ、この点において原告の美容整形の目的が達成されていないものというべきである。
被告は、仮に原告に多少の臀部の凹凸が存在しても、多少の右凹凸は本来各手術には当然伴うものであるうえ、他人の目の届かない部位であるから、これをもって後遺症ということはできない旨を主張するが、美容整形外科の専門家であり現実に原告を診察している証人大竹尚之(北里大学医学部講師)の証言によっても、原告に現存している臀部の右凹凸は、通常の脂肪吸引手術によって発生する凹凸・非対称を超えるものと認められるものであるうえ、美しく綺麗になるための手術という美容整形手術の本質に照らして、通常、衣服に包まれて他人の目の届かない部位であるからとか痩身がはかられたからといって、臀部の凹凸や非対称が、美容整形手術における後遺症ではないということはできない。
(二) そして、原告の臀部に右凹凸等が生じたのは、前記認定に照らせば、本件第二回手術の目的が、原告の左臀部の脂肪の取り残しを吸引することにあり、かつ、脂肪の吸引量が増加すればするほど不正面の発生する可能性が高いのであるから、被告やその雇用する医師は、必要以上の多量の脂肪吸引をして右凹凸等が生じないように注意すべき義務があるのにこれに反して、本件第一回手術より多量の約一五〇〇CCの脂肪を吸引した結果というべきである(臀部の脂肪量に個人差はあるとはいえ、原告は身長一四三センチメートル、体重は四五キログラムという小柄な女性であり、左臀部の取り残しの脂肪を吸引するという右目的からして、脂肪吸引量が多すぎたことは否定できないものと解される)。
<東京地裁:平成13年4月27日判決>
◆被告の開設する医院で臀部の脂肪吸引の美容整形手術を受けた原告が、同手術により臀部に溝、しわができたとして、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を請求した事案において、手術の過誤及び説明義務違反は存しないとして、同請求が棄却された事例
原告は、12月中旬、当時通っていたエステティックサロンにおいて自己の臀部の写真(甲1、2)を撮影した。
ところで、原告が主張する本件手術により生じた臀部の異常は、〈1〉しわが新たに生じ又は深くなった、〈2〉付け根のしわが体側方向に長くなり、左右非対称となった、〈3〉弾力性がなくなり、下垂したというものである。
しかし、まず前記認定の本件手術の術式からみると、その過程に特に多量の脂肪吸引がされた等の特異な方法がとられた形跡はなく、また、吸引された脂肪の量は第1回目と第2回目の各手術を通じてほぼ左右等量なのであるから、身体の左右に異なる形状をもたらすものとも想定できない。
そして、被告が本件手術の前後に原告を撮影した写真(乙3)の各写真を対比しても、本件手術前と比較して、本件手術後である9月9日において、原告の臀部は、下縁付近、腰部の体側方向部分付近、大腿部の上方体側方向部分付近において若干細くなった事実が認められるものの、新たな溝、しわが発生した事実、溝、しわが深くなった事実、臀部下縁のしわが体側方向に長くなった事実、臀部上のしわ様の部分付近が左右非対称になった事実、臀部が垂れ下がった事実はいずれもこれを認めることができない。
ところで、原告が本件手術後にその臀部を撮影した写真(甲1、2)と上記各写真(乙3の枝番号〈1〉)とを比較すると、本件手術後、原告の臀部の溝、しわが若干深くなったように見えないでもない。しかしながら、甲1、2号証の各写真は、乙3号証の枝番号〈1〉の各写真よりも光量が少ない状態で撮影されている上、撮影方向も異なるため、溝、しわ等の形状ないし色が強調されているものと認められる。また、乙3号証の各写真が原告の下半身全体を撮影しているのに対して、甲1、2号証は臀部のみが撮影されており、原告の撮影時の体位も確認することができない。したがって、甲1、2号証の各写真の比較のみから溝、しわの発生等を判断することはできない。なお、原告撮影の写真のみによっても、臀部の外観上の凹凸、左右非対称等があることあるいは弾力性がなくなったことをうかがうべき事情を認めることはできない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、本件手術を行うに際して、被告の過失は認められない。
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