企業と法律 「株式のペーパーレス化」
株式のペーパーレス化と担保として預かった株券
1. 総論
ご存じのように、平成21年(2009)6月を限度として、公開会社の株式は一律に無証券化すなわちペーパーレス化される運びとなりました。
その制度趣旨は、株式のペーパーレス化を通じて、券面保有にともなう株式の発行及び流通管理に係るリスク、コストの削減を図り、株式取引の決済の合理化、迅速化を目指すというものであります。
この項では、今後、株式がペーパーレス化されるにあたり、企業が取引先から担保として預かっている株券がどのように扱われるのか、企業としてはどのような手続をとっておかなければならないのかについて概説いたします。
なお、ここでの説明はあくまでも現時点(2004年9月)での関係各方面の要綱、資料等を参照して、まとめたものでありますので、場合によっては今後変更もありうるものとご理解下さい。
2. 問題点
まず、企業が取引先から担保として預かっている株券の法的性質を略式質と捉えて説明します(略式譲渡担保については
後記4参照)。
略式質は、発行された株券を渡すことにより生じるという実務の慣行があります。
これは、取引先と企業との間の券面のやりとりだけで行っておりますので、保管振替機構にデータはまったく記録されておりませんので、当然、保管振替機構は当該株式が質権に入れられていることを知らないことになります。
よって、株式のペーパーレス化が実施されると、株主名簿に書かれている株主が、質に入っていないきれいな状態で新しい振替機構に記録されてしまうことになってしまいます。
そうすると、単に株券のみを預かっている質権者は、自分が質権者であることを証するすべがなくなってしまうのです。
この防止のための措置が講じられる運びとなっております。
3. 株式振替制度利用会社の場合
株券が無効となる施行日前に、保管振替機構に質権者であることを名乗り出て、保管振替機構に質権者として記録してもらう手当がなされる予定です。
記録がされれば、その記録が新しい振替機関に転記されて、質権の消滅を防止できることになります。
この名乗り出る日にちですが、現在、特例として施行日の1ヶ月前から2週間前の前日に限って、略式質権者(券面をもっているだけの質権者)については単独で保管振替機構に記録を求めることができることになるとされております。そうすれば、そのデータが新しい振替機関に転記されて、振替機関に記録されて略式質権者の権利が保全されることになります。
これは通常は出来ないのですが、今回、質権を保全するという観点から設けられたものです。
4. 株式振替制度利用会社以外の株券廃止会社の場合
このような会社が、株券を発行しない旨の定めをする定款変更決議をした場合には、会社は、株券を発行しない旨の定款の定めをした旨及び一定の日において株券は無効となる旨をその一定の日の二週間以上前に公告し、かつ、株主および登録質権者に各別に通知しなければならないとされております。
そのときに、略式質権者は、その一定の日までの間に、会社に株券を呈示したうえで、自己の氏名及び住所を株主名簿に記載することを請求することができるとされております。こうして、株主名簿上質権者となった者を特例登録質権者と呼びます。
略式質権者は、株券が無効となり対抗要件を喪失することによる不利益を回避する手段を設けたのです。特例登録質権者は、この登録により従前どおりの対抗要件を維持できることになります。
略式譲渡担保については特に手当がなされておりませんので、担保権設定者との合意により略式質としたうえで特例登録質権者となるか、登録質権者もしくは登録型の譲渡担保権者になるか選択することになるものと考えられます。
5. 株券不発行制度実施後について
なお、株券廃止会社になった後は、株券がないので略式質は認められなくなります。登録質の方法のみが認められることになります。
その場合の株式の質入れは、当事者の合意によって効力を生じ、株主名簿の記載が会社及び第三者への対抗要件になります。
上記の一定の日までに登録の請求をしなかった略式質権者は、質権設定者との合意により株主名簿に登録質の記載を請求するしか方法がないといわれております。
この
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