御器谷法律事務所

公正取引委員会の事件処理の流れ

(審査、審判、審決)
独禁法違反事件が公取委によりどのように処理されるのか、その手続を概観してみます。

1. 事件の審査の端緒
(1) 一般人からする公取委への申告
・法§45(1):「何人も、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。」
・被害者や内部告発
(2) 公取委の職権探知-法§45(4)
(3) 検事総長からの通知-法§74

2. 審査
 公取委は、事件の端緒の後、予備調査を行い、さらに内偵活動を行い、そこで独禁法違反を疑う相当の事由ありと判断したときは審査官を指定し必要な調査を行うことになります。これを一般的には「立件」と言っています。
 この審査は、公取委が行ういわば捜査に近いイメージがあります。
公取委の審査活動には、相手方の任意の協力を得て行う審査と強制権限をもって行う審査があります。前者を「任意審査(調査)」、後者を「強制審査(調査)」と一般的には呼んでいます。
(1) 任意審査(調査)
 比較的に軽微な事案の審査の際利用。
(2) 強制審査(調査)-法§47(1)
 1) 事件関係人、参考人への出頭命令、審訊

 2) 鑑定人への出頭命令、鑑定命令
 3) 帳簿書類、その他の物件の提出命令
 4) 事件関係人の営業所等への立ち入り検査権
 この点については別稿「立入検査への対処」をご参照下さい。

3. 審査後の手続
(1)公取委の審査官が独禁法違反被疑事件について必要な調査をしたときは、公正取引委員会はその要旨を調書に記載します(法§48)。
(2)事前通知(法§49(3)~(5))
 公取委は、排除措置命令をしようとするときは、あらかじめ、その名あて人に対して、予定される排除措置命令の内容、公取委が認定した事実、法令の適用、意見申述等の期限等を書面にて通知し、意見申述と証拠提出の機会を付与しなければならないものとされています。
(3)排除措置命令(法§49(1)~(2))
 公取委の排除措置命令書には、独禁法違反行為を排除し、又は違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置、認定事実、法令の適用を記載しなければならないものとされています。
(4)不問措置
 独禁法被疑事件の審査の結果として、排除措置命令等の法的措置がとられないことがあります。その場合でも次のような公取委の処理(行政指導の一種)があります。
1) 警 告- 独禁法違反の立証をすることができないものの、違反の疑いが認められるときに一定の是正措置をとるよう行政指導するもので、一般的には文書で行われ、公表されることがあります。
2) 注 意- 独禁法違反といえないものの、違反のおそれのある行為につき注意を喚起し、違反の未然の防止を図ろうとするものです。
3) 打切り- 独禁法違反を認めることができず、審査手続を打ち切るものです。

4. 審判
(1) 意義
 審判手続とは、独禁法違反行為の有無を審理する準司法手続的な性質を有する行政手続。
 なお、平成17年の独占禁止法の改正により勧告制度や同意審決が廃止されたことを受けて、審判手続は公取委の行政処分である排除措置命令に対する事後の不服審査手続となったものとされています。

(2) 主体-司法類似の三面構造
 1) 審判官(§56)-いわば裁判官役
 2) 審査官(§58)-いわば検察官役
 3) 被審人(§59)-いわば被告人
(3) 審判手続の主な流れ
1) 排除措置命令、課徴金納付命令に不服ある者(法§49(6)、§50(4))の審判請求(§52)
公正取引委員会の審判廷
2) 審判開始決定(法§55)
3) 冒頭手続(答弁書の提出)
4) 弁論(準備書面の交換)
5) 証拠調べ
6) 最終意見陳述(審査官、被審人)
7) 審判官による審決案の作成、送達
8) 公正取引委員会による審判の終了  

(4) 審判手続は、次の事由により終了します。
1) 審判請求の取り下げ(§52(4)(5))
2) 却下審決(§66(1))-審判請求が法定の期間経過後その他不適法なとき
3) 棄却審決(§66(2))-審判請求が理由がないとき
4) 取消、変更審決(§66(3))-審判請求が理由があるとき、原処分の全部又は一部を取り消し、又は変更する。
平成24年のJASRACに対する排除措置命令の取消の審決が、これに該当するでしょう。
5) 違法宣言審決(§66(4))-原処分を取り消す場合、原処分までに違反行為があり、原処分時において既に違反行為がなくなっているときは、違法の旨を宣言する。
6) 独占的状態に関する審判審決(§65)

5. 審決取消訴訟-法§77
(1) 意義
 公取委の審決という行政処分の取消を求める訴訟。
(2) 東京高等裁判所に専属管轄-法§85
(3) 実質的証拠の法則-法§80
 「審決取消訴訟については、公取委の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束する。
 前項に規定する実質的な証拠の有無は、裁判所がこれを判断する。」

6. 判決、審判例
和光堂事件-最高裁 昭和50年7月10日第一小法廷判決
 「被上告委員会の審判手続は、・・・同委員会が自ら審判開始決定をした事件につき、関係者に防禦の機会を与え、審決をもって違反状態を排除することを目的とした行政上の手続であって、民事若しくは刑事の訴訟手続とは性格を異にするから、その審判の対象の特定に関して訴訟手続におけるのと同様に厳格な手続的規制が要求されるものではない。・・・事実の同一性を害せず、かつ審判手続全体の経過からみて被審人に防禦の機会を閉ざしていないかぎり、違法ではない」「・・・感謝金制度について審理が及ぶことは当然であり、たとえ審判開始決定書自体にその具体的記載がなくても、被上告委員会が審決においてこれを認定することは、なんら事実の同一性を害するものではない。そして、右の感謝金制度につき上告人が現実に防禦の機会を与えられていたことは、・・・明らか」である。「法69条により事件記録の閲覧謄写を許される『利害関係人』とは、当該事件の被審人のほか、法59条及び60条により参加しうる者及び当該事件の対象をなす違反行為の被害者をいうものであって、上告人は(ロ)の別件記録については右にいう『利害関係人』にあたらない」

ノボ・インダストリー事件-最高裁 昭和50年11月28日第3小法廷判決
 「勧告審決の制度は、違反行為をした者がその自由な意思によって勧告どおりの排除措置を実行する限りは、あえて審判手続を経て違反行為の存在を確定したうえで排除措置を命ずるまでもなく、法の目的を簡易、迅速に実現することができるとの見地から設けられたもので・・・専らその名宛人の自由な意思に基づく勧告応諾の意思表示をその基礎とするものである。・・右審決は・・・適法有効な審決として拘束力を有するが、右名宛人以外の第三者に対する関係においては、右第三者を拘束するものでないことはもちろん、当該行為が違反行為であることを確定したり、右審決に基づくその名宛人の行為を正当化したりするなどの法律的な影響を及ぼすこともまたないものとして、独禁法上予定されているものと解するのが、相当である。したがって、名宛人以外の第三者は、他に特段の事情のない限り、勧告審決によってその権利又は法律上の利益を害されることはないものというべきである。」
 「・・・かように、本件審決によってその権利又は法律上の利益の侵害があると認められない以上、上告会社は、本件審決の取消しを訴求する原告適格を有しない・・・」

東芝ケミカル事件
-東京高裁 平成6年2月25日判決
-東京高裁 平成7年9月25日判決
「本件が審査段階にあった当時、審査部長であった甲は、本件につき、審査官に指定されていなかったものの、職務上、その具体的事実関係やそれを裏付ける具体的証拠の存在及び内容についての情報に接触しており、本件審判開始前の時点において、既に本件の事実関係について具体的な心証をもち、右事実関係に対する法律の具体的適用及び結論についての意見を形成し、しかも、これを本件審査の統括責任者として対外的に表明していたこと・・・が明らかである。そうすると、甲が本件審決に関与することは、被審人にとって、本件審査の統括責任者として既に予断、偏見のある者が審決に関与することを意味するのみならず、・・・本件審判手続で取り調べられた証拠にとどまらず、それ以外の証拠により形成された具体的心証や具体的意見をもって本件審決に臨み、被審人が争わない事実及び公知の事実を除いては審判手続における証拠調べの結果に基づいてのみ認定すべきものとする法54条の3に違反し、ひいては誤った審決がされる危険が存在したものというべきである。・・・法は、公正取引委員会の機構上生ずる審決不可能という事態を避けることも考慮して、あえて差戻し前の審決に関与した委員を差戻し後の審決から排除する規定を設けていないものと解されるのであって、差戻し前の審決に関与した委員が差戻し後の審決に関与したからといって、その審決が違法となるものではないと解するのが相当である。」

中部読売新聞社緊急停止命令事件-東京高裁 昭和50年4月30日決定
 「公正取引委員会は少くとも事案について審査に着手した以後は審判開始決定の前後を問わず、独占禁止法67条により裁判所に対し緊急停止命令を求める申立をすることができる」

<旧法における審査後の「勧告、警告、注意」>
 公取委の審査が終了した時点で、公取委は審査事件について次のような処理を行います。
 なお、独占白書によれば平成16年度の公取委の審査事件の処理状況は、年間審査件数139件、勧告35件、警告9件、注意60件、打切り16件となっています。
(1) 勧告-旧法§48
 独禁法違反行為があると認めるときに排除措置等適当な措置をとるべきことを求める公取委の法律上の措置。
1) 公取委は、勧告書の謄本を相手方に送達
2) 相手方は、勧告を応諾するか否かを一定の期間以内に文書で回答
3) 相手方が応諾 → 公取委は、勧告と同趣旨の審決(勧告審決)
相手方が応諾せず → 審判開始決定
(2) 警告-公取委の行政指導
 一般的には、独禁法違反行為の疑いが認められるが証拠上完全に違反行為の認定までは認められない場合や、違反行為は認められるが競争秩序への影響が比較的軽微な場合等に、公取委が行政指導として違反被疑事実の是正を求める措置。
 この場合も文書にて警告が行われ、プレスや公取委のホームページ等を通して公表されることが多くあります。
 警告は、いわば刑事事件の起訴猶予と同じようなイメージがあると指摘する人もいます。
(3) 注意-公取委の行政指導
 一般的には、当該行為が独禁法違反とまでは認定できないが、違反行為につながるおそれのある行為について、未然防止の見地から、公取委が行政指導として相手方に対して独禁法による規制の趣旨を説明して注意を喚起する措置。
(4) 審査打切り
 公取委において審査を行った結果、独禁法違反行為がないと判断された場合等に、公取委が審査手続を打ち切る措置。

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