御器谷法律事務所

課徴金減免制度(リーニエンシー)

1. 課徴金減免制度とは、
 入札談合やカルテル(不当な取引制限)により独占禁止法に違反した事業者が、自らその違反事実を公正取引委員会に報告し、資料を提出したときに、次のとおり課徴金を免除ないし減額する制度(独禁法第7条の2、10項〜)。
(1) 調査開始日前の1番目の申告事業者→全額免除
(2) 調査開始日前の2番目の申告事業者→50%減額
(3) 調査開始日前の3番目の申告事業者→30%減額
(4) 調査開始日以後の申告事業者→30%減額
(但し、計5社まで、調査開始日以後は、最大3社)
 欧米の制度に倣い、アメリカのリーニエンシー制度(Leniency Policy)のいわば日本版ともいえるでしょう。

2. 課徴金減免制度の趣旨
(1) 談合やカルテルは、秘密裏に行われ証拠の収集が困難なことから、違反者からのいわば「自首」による申告に課徴金の減免措置を行い、談合やカルテルの摘発を容易にし、独禁法違反行為の防止を図ろうとした。
(2) 欧米におけるリーニエンシー制度が実績をあげていることから、国際カルテル等の摘発に有効ともいわれています。
(3) 独禁法の違反者が自首することにより、これにインセンティブを付与し、事業者のコンプライアンスを促進する意味もあるとされています。
(4) なお、アメリカにおける「司法取引」と異なり、課徴金減免制度は法定の要件に該当すれば裁量の余地なく適用されるものとされています。

3. 平成21年独禁法改正による変更点
(1) 同一企業グループによる共同申請を認めた(法第7条の2、13項)
 不当な取引制限を行った事業者間に親会社や子会社(議決権の過半数を有する)、兄弟会社、孫会社等一定の関係を有する同一企業グループに属するときは、その企業グループ内の複数の事業者による共同申請を認め、これを一社による申請とみなし、すべての共同申請者に同一の順位を付けるものとしました。
 なお、アメリカやEUでは、すでにグループ申請を認めており、これに対応した改正という面も指摘されています。
(2) 減免申請者数を3社から5社に拡大した(法第7条の2、11項、12項)
 課徴金減免申請者が、公取委の調査開始日の前後合わせて最大5社に拡大されました。但し、調査開始日以後は最大3社とされています。
 なお、4番目と5番目の申請者にあっては、公取委が把握していない事実に関する報告書や資料の提供が必要とされています。
(3) 課徴金納付命令の除斥期間が3年から5年に延長(法第7条の2、27項)

4. 具体的手続
(1) 事前相談
必要があれば公取委の課徴金減免管理官において受付けることが考えられています。
(2) 違反事実の申請
1) 所定の報告書(様式第1号)をFAXにて公正取引委員会に送る−「仮の順位」
2) 会社自身の意思決定に基づき行う
3) 事業者が単独で行うこと - 但し、企業グループによる共同申請は可
4) 申請事実は第三者へ明らかにしない(秘匿義務)
5) 調査開始日以後は違反行為をしない
(3) 公取委からの下記の通知
1) 「仮の順位」
2) より具体的な報告書(様式2号)、資料の提出期限
(4) 報告書(様式2号)及び資料の提出
(5) 公取委−確定順位の通知
(6)
公取委の調査開始後
1) 報告書(様式第3号)をFAXにて公取委に送る。調査開始日より20日以内(官庁の休日を除く)−事前相談もあり
2) 違反行為に係る資料を提出(持参、書留、FAX等)。調査開始日より20日以内(官庁の休日を除く)−追加報告もあり
3) 既に公取委によって把握されている事実に係る報告や資料は除外されますので、各事業者独自の資料や陳述書の提出が必要

5. 注意事項
(1) 事業者の申告内容に虚偽があったり、他の事業者を強要、妨害したときは、減免は受けられません。なお、企業グループによる共同申請の場合には、そのうちの1社でも虚偽等があれば、その効果は全体に及ぶものとされています(法第7条の2、17項)。
(2) 刑事告発を免除されるのは最初に申告した事業者のみとされています。
(3) 減免は課徴金のみの問題であり、発注者からの損害賠償請求や不当利得返還請求、さらには株主代表訴訟とは全く別の問題と考えられます。
 なお、指名停止処分も別問題ですが、リーニエンシー申立企業には指名停止期間を半減した事例(平成22年4月の空自事務用品入札談合事件での国交省の指名停止)もあります。
(4) 私的独占や不公正な取引方法については、その一部につき課徴金が問題となる余地がありますが、この点については本減免制度の適用はないとされています。つまり、課徴金減免制度の対象は、あくまで入札談合とカルテルに限られます。
(5) 企業のコンプライアンス上も又本件の減免措置を受けるか否かを検討するに際しても、他の企業の動きもあり、社内調査及びこれに基づく経営判断の際にもスピードがより一層強く求められるものと考えられます。また、私達弁護士においても、情報収集と様々な交渉能力が必要とされることとなってきました。

6. 実務の動き
 課徴金減免制度は、平成18年1月施行の改正独禁法により実施されることとなりましたが、平成18年3月に公取委が立入り検査に着手した水門建設工事入札談合事件が事業者からの初の申告に基づくものではないかとの新聞報道がありました。
 その後、平成18年8月の新聞報道では、首都高速道路のトンネル用換気設備工事談合事件で、三菱重工業、石川島播磨重工業、川崎重工業の3社に対して初めて課徴金減免制度が適用された、とのことです。
 この課徴金減免制度は、その導入以来思いのほか申請が多くありました。平成18年1月から平成21年3月までの申請件数は264件、平成20年度の申請だけでも85件と言われています。そして、公取委による不当な取引制限による法的措置のかなりの件数が、この課徴金減免制度による申請に基づくことになります。

7. リーニエンシーに対する企業の実務対応
 課徴金減免制度は、不当な取引制限を行ってきた事業者にとっては大変有利な制度であり、企業のコンプライアンス上も有意義な制度として有効に活用したいものです。
(1) 最近は内部告発や社内調査により独禁法違反行為が発覚したときは、直ちに経営トップに上げ、リーニエンシーの申請をすべきことになります。この点、経営トップの迅速な対応と意識改革が要請されます。特に、公取委の調査開始日前の一番目の申請社は、課徴金全額免除、刑事告発免除の恩典もあり、重要となります。経営者としては、株主代表訴訟や自社の評価、他社との付き合い、社員のモラル等につき決断を迫られることもあります。
(2) 独禁法コンプライアンス・プログラムの中に、カルテルや入札談合を監査すべき社内調査(監査)システムを組み込んでおく必要があります。そして、この社内調査にあっては、社員からの事情聴取や証拠への確保が必要となり、いわば検察官のような仕事をすることに少なからぬ抵抗もあり、弁護士の利用も考えうるところです。
(3) リーニエンシーによる課徴金減免は、いわば“早いもの勝ち”ともなりますので、顧問弁護士が独禁法に詳しくないときは、独禁法に詳しい弁護士に速やかに相談すべきでしょう。公取委の調査開始前においては経営者の判断が重要でしょうし、又、調査開始後においてはスピード競争となり新しい証拠等の提出が必要となるでしょう。
(4) 公の入札に参加している企業は、入札談合のリスクが大きいので、社内調査に際しては、入札額の積算資料等のチェックが必要となるでしょう。
(5) カルテルの成否に際しては、寡占市場における各企業の値上げ等の理由、値上げ幅、値上げの時期、業界の動向、業界での会合・集まり等のチェックが必要でしょう。
(6) 平成21年独禁法改正で企業グループの共同申請と減免申請者数が拡大されたことにより、同一企業グループ内の企業で連携して事実関係を調査してリーニエンシーの申請をすることが可能となり、減免申請者数も5社に拡大されたこともあり、より減免制度が利用しやすくなったものと思われます。そして、その分、より他社の動向に注意しなければならなくなったものとも考えられます。
(7) 平成21年独禁法改正で課徴金納付命令の除斥期間が5年に延長されたことにより、公取委の調査、処分等のリスクが延長され、その分企業としてはカルテルや入札談合に関する社内調査の対象期間が延長されることとなりますので、この点も十分注意を要するものと思われます。

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