御器谷法律事務所

エンフォースメント ― 審決取消訴訟

1. 審決取消訴訟とは
 公正取引委員会による排除措置命令課徴金納付命令を命じる審決に対して不服がある場合は、その審決の取消しを求めて訴えを提起することができます。これを、審決取消訴訟といいます(独占禁止法第77条)。
 なお、審判段階においても審決案の謄本送達から2週間は公正取引委員会に対して異議申立ができます(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則84条)。
これは、審判段階においても不服申立をする機会を設けて審判手続きをより慎重なものにして、審決取消訴訟とともに被審人の手続保障を厚くするものと考えられます。
(1) 審決取消訴訟の特徴
 被告は、公正取引委員会になります(法第78条)。
 これに対し、原告適格については、独禁法上規定がないため、理論上は、行政訴訟の原則により、「法律上の利益を有する者」が、審決取消訴訟を提起することができることになります(行政事件訴訟法第9条1項)。もっとも、実際には、審決の名宛人以外に原告となることが認められた例はありません。
 なお、平成16年の法改正で行政事件訴訟法9条2項が新設され、「法律上の利益」の判断要素が明示されました。今後原告となる者の範囲が広がるかもしれません。
 排除措置命令や課徴金納付命令の名宛人には、審決取消訴訟を提起する訴えの利益は基本的に認められるでしょう。
 なお、違反行為は存在したが、すでに終了したことを明らかにする違法宣言審決(法第66条4項)がなされた場合は、排除措置を命ずるものではありませんが、違反行為の存在が審決主文で宣言されてしまうため、取消訴訟を提起する訴えの利益は認められます。
 
(2)訴え提起の手続 
 公正取引委員会の審決は、審決書の謄本の送達を受けた日から効力を生じます(法第70条の2第3項)。審決取消訴訟は、この日から30日以内(独占的状態に係る審決の場合3カ月以内)に提起しなければなりません(法第77条)。また、審決書の謄本の送達により生じる効力には執行力も含まれます。そのため、課徴金納付命令に対する審決取消訴訟を提起する際には、執行停止の申立(行政事件訴訟法25条)も併せて行う必要があります。
 なお、排除措置命令がされたときは、裁判所の定める保証金を供託して執行を免れることができます。(法70条の6)
 また、訴額は、民事訴訟の例により、請求の態様に応じて算出されます(行政事件訴訟法7条)。課徴金納付命令にかかる審決の場合は、課徴金額を基礎に算定されます。排除措置命令にかかる審決の場合は、非財産権上の請求または訴額の算定がきわめて困難な場合として、160万円とみなされます(民事訴訟費用に関する法律4条2項)。
 訴えを提起すると、通常の訴訟とは異なり、第一審から東京高等裁判所に専属し(法第85条)、5人の裁判官が審理をすることになります(法第87条)。

2. 審決取消訴訟の審理の特徴
(1) 実質的証拠法則―法第80条 
 審決取消訴訟においては、公正取引委員会の認定した事実について、実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束します(法第80条1項)。実質的な証拠の有無は裁判所が判断します(法第80条2項)。
 このように、事実認定に対して、裁判所が判断できるのは、実質的な証拠の有無に限られることになります。これを「実質的証拠法則」といいます。このような実質的証拠法則が認められる理由は、事実認定について独禁法違反事件に関する専門的知識を有する公正取引委員会の判断を尊重しようとする点にあります。
 日本出版協会事件‐東京高判昭和28年8月29日
「実質的な証拠とは、審決認定事実の合理的基礎たり得る証拠の意味である。すなわち、その証拠に基き、理性ある人が合理的に考えてその事実認定の到達しうるところのものであれば、その証拠は実質的な証拠というべきである。」
 和光堂事件‐最判昭和50年7月10日
「裁判所は、審決の事実認定については、独自の立場で新たに認定をやり直すのではなく、審判で取り調べられた証拠から当該事実を認定することが合理的であるかどうかのみを審査する。
 新聞販路協定審決取消請求事件‐東京高判昭和28年3月9日
「審決の基礎となった事実はこれを立証する実質的な証拠があるときは裁判所を拘束するのであって、このことは裁判所が自ら反対の事実を認定し得ないことを示すのみでなく、審決後に反対の事実の生じたことを認定することをも禁じた」
  
(2) 新証拠の申出の制限―法第81条
 審決取消訴訟は、審決の認定事実について実質的証拠の有無を審査するものですので、裁判になってから新たな証拠を提出することは制限されます。新証拠提出が許されるのは、1)公取委が正当な理由なく当該証拠を採用しなかった場合、または、2)審判に際して当該証拠を提出することができず、提出できなかったことについて重過失がなかった場合に限られます(法第81条1項)。
 1)を根拠に新証拠の申出をするためには、審判段階で証拠申出をしておく必要があります。また、2)を根拠に新証拠の申出をする場合にも、重過失が認定されないように、重要な証拠は審判段階で申出を行なっておくべきでしょう。
 実務に際しては、書証や人証について、どこまで新証拠の申出をすることが許されるのかという問題があります。審決取消訴訟は、その多くが約1年間前後位という短期間で審理を終えること、裁判例においても、新証拠の申出の主張があまり認められていないことから、審判段階でなるべく証拠の申出をしておくことが望ましいでしょう。
 
(3) 取消の要件―法第82条
 審決は、1)審決の基礎となった事実を立証する実質的証拠がない場合、2)審決が憲法その他法令に違反する場合に取り消されます(法第82条1項)。取消判決が確定した場合、公取委は、判決の趣旨に従い改めて審決をすることになります。

(4) 不服の申立て
 裁判所の判決に不服があるときは、最高裁判所に対し上告または上告受理申立てをすることができます。審決取消訴訟は、通常の三審制ではなく、第一審を東京高等裁判所、第二審を最高裁判所とする二審制を採用します。その理由は、審決自体が慎重な審判手続きを経ているためとされます。

3. 審決取消訴訟の実務上の問題点
 実質的証拠の不存在を理由に審決を取り消した例としては、「有力事業者」と認定する根拠になった原告の販売シェアの算定、認定に誤りがあるとした東洋精米機事件(東京高判昭和59年2月17日)があります。
 法令違反を理由として取り消した例としては、事件の審査に深く関与した人物が公正取引委員会の委員として審決に関与した、東芝ケミカル事件(東京高判平成6年2月25日)、入札談合において、基本合意には参加したが、受注調整に参加していない工事も課徴金算定の対象に含めたのを違法とした、土屋企業課徴金納付命令審決取消訴訟(東京高判平成16年2月20日)があります。
 このように上記のような取消判決が出ることは比較的少ないのが現状です。

 この審決取消訴訟につきましても、遠慮なく当事務所にお問い合わせ下さい

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