御器谷法律事務所

会社合併への独占禁止法の規制


1. 会社合併と独占禁止法
 会社は、次の場合には、独占禁止法上合併をしてはならないものとされています(法第15条)。
(1) 合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
(2) 合併が不公正な取引方法によるものである場合
 これは、合併により複数の会社が組織法上も一つの法人となり最も強固な結合関係が形成されるので、独禁法がこれを規制しようとするものです。

2. 合併の事前届出
 企業結合集団の国内売上高200億円超の会社と同50億円超の会社が合併する場合には、原則として事前に合併に関する計画を公正取引委員会に届け出なければなりません(法第15条2項)。
 なお、届出受理の日から30日を経過するまでは合併をしてはなりません。
 詳細は公取委のホーム・ページ「合併の届出制度」をご覧下さい。

3. 企業結合ガイドライン
 合併につき、公正取引委員会は、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月公取委)において、「合併の場合は、複数の会社が一つの法人として一体となるので、当事会社間で最も強固な結合関係が形成される」ものとし、特に「第4 水平型企業結合による競争の実質的制限」として、「1.基本的考え方」、「2.単独行動による競争の実質的制限についての判断要素」、「3.協調的行動による競争の実質的制限についての判断要素」を明らかにしています。

4. 平成21年独禁法改正
 平成21年独禁法改正では、合併の事前届出について、届出基準が全面的に見直されました。
 その主要な改正ポイントは以下のとおりです
(1) 国内売上高を届出基準額の算定の基礎として採用
 従前は、当事会社の総資産額を届出基準額算定の基礎としていましたが、これが、次項の「企業結合集団」を構成する各会社の国内売上高の合計額を基礎とするように変更されました。
(2) 「企業結合集団」概念の導入
 合併等の届出基準額算定の基礎となる国内売上高の合算の際に、対象とされるべき企業の範囲について「企業結合集団」という新たな概念が導入されました。
 この企業結合集団は、「会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の親会社であって他の会社の子会社でないもの及び当該親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除く)から成る集団をいう」と定義付けられています(法第10条2項)。
 具体的には、持ち株会社のもとに複数の事業会社を統合するなどのグループ経営を行っている場合等に、当該企業結合が市場に与える影響を分析するにあたっては、企業結合の当事会社だけでなく当該当事会社が属する企業グループ全体としての市場における地位や支配力も考慮した上で規制されることとなります。
(3) 子会社、親会社の規定の新設
 前項の企業結合集団概念の新設に伴い「子会社」、「親会社」の定義も新設されました。
 「子会社」については、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している会社等として公正取引委員会規則で定めるものをいう」(法10条6項)、「親会社」は「会社等の経営を支配している会社として公正取引委員会規則で定めるものをいう」(法10条7項)と、それぞれ規定されています。

5. 企業の実務対応
 平成21年独禁法改正により、合併等の届出基準額算定の対象が国内売上高基準へと変更されました。この「国内売上高」には、外国会社や海外子会社等から日本国内への輸出額も含まれます。
また、算定の対象となる企業の範囲には、企業結合集団という新概念が採用されました。
 こうしたことからは、特に外国会社を当事会社に含む国際的な企業結合において、当該外国会社を含めた企業結合集団の日本国内における売上高の合計額が届出基準額の基礎とされるため、届出を要する企業結合の範囲は、従来よりも拡大するものと予想されます。
 その他にも、平成21年独禁法改正では、企業結合に関する規制ついて、株式取得についての事前届出制の導入や、会社分割・事業譲渡等に関しても届出基準を全面的に見直す等重要な変更がされています。
 特に、M&A等企業再編にあたっては、事前届出を要する企業結合の範囲の拡大に対応して、公取委への事前届出の要否、事前届出及び公取委での審査に要する期間、公取委から問題解消措置の示唆を受けた場合の対応期間等を十分に計算したスケジュールを策定すべきことに注意を要します。
 また、今後は、企業結合の当事会社だけでなく、企業グループ全体としての市場における地位や支配力を勘案して当該企業結合が市場に与える影響を分析する必要もあり、各企業においては、企業結合取引に関し、これまで以上に慎重な検討と詳細な当該事案の分析が必要となるものと予想されます。

6. 審決−新日鉄合併事件:公取委昭和44年10月30日同意審決(要旨)
(1)  第15条第1項第1号にいう「当該合併によって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」とは、当該合併によって、市場構造が合併前と比較して非競争的に変化し、特定の事業者が、市場における支配的地位を獲得することとなる場合をいう。しかして、ある事業者が、市場を独占することとなったり、あるいは取引上、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右しうる力をもつこととなり、これによって、競争事業者が自主的な事業活動を行ないえないこととなる場合には、右の特定の事業者は、その市場における支配的地位を獲得することとなるとみるべきである。
 ところで、特定の事業者について市場支配的地位が形成されるかどうかは、当該の合併当事者会社の属する業界の実情ならびに各取引分野における市場占拠率、供給者側および需要者側の各事情、輸入品の有無、代替品ならびに新規参入の難易等の経済的諸条件を考慮して判断されなければならない。
 しかして、これらの事情を勘案すれば、現状において八幡製鉄と富士製鉄が合併することとなった場合、鉄道用レール、食かん用ブリキ、鋳物用銑および鋼矢板の各取引分野について競争が実質的に制限されることとなると認められるが、そのそれぞれについてみれば、以下のとおりである。
(2) 鉄道用レール
 現状のままでは、八幡製鉄と富士製鉄が合併することによって、鉄道用レールの取引分野における競争を実質的に制限することとなり、これは、私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。
 日本鋼管が鉄道用レールの取引分野に新規参入した場合、同社を同レールの製造、販売について合併会社に対する有効な牽制力ある競争者として評価しうるためには、日本鋼管は、自主的に同レールの取引条件を決定しうる地位になければならない。
(3) 食かん用ブリキ
 現状のままでは、八幡製鉄と富士製鉄が合併することによって、食かん用ブリキの取引分野における競争を実質的に制限することとなり、これは私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。
 東洋鋼鈑が食かん用ブリキの取引分野において、合併会社に対する有効な牽制力ある競争者として評価されるようになるためには、八幡製鉄は、「事実」第二、二記載の契約にもとづいて、合併期日前に日本鋼管と東洋製缶に対してそれぞれ所定の株式を譲渡する必要があり、右譲渡がなされた後、合併会社が東洋鋼鈑に対して同社のホットコイルの取引について干渉しなければ、合併会社と東洋鋼鈑の間において、食かん用ブリキの取引について、公正かつ自由な競争が期待できることとなる。
(4) 鋳物用銑
 現状では、八幡製鉄と富士製鉄が合併することによって、鋳物用銑の取引分野における競争を実質的に制限することとなり、これは、私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。
 八幡製鉄と富士製鉄の合併によって、鋳物用銑の取引分野において、競争が実質的に制限される状態が排除されるためには、まず、神戸製鋼所が神戸第一高炉および尼崎第二高炉等において製造する鋳物用銑が八幡銑と同等に評価されうることが必要であり、このためには合併会社による「事実」第二、三、(一)記載のノウ・ハウの提供が適正な対価等のもとに確実に行なわれることを要する。
(5) 鋼矢板
 鋼矢板の取引分野においては、現状で八幡製鉄と富士製鉄が合併すれば、唯一の有効な競争者が消滅し、合併会社は、市場支配的地位を獲得することとなると認めざるをえないから、鋼矢板の取引分野における競争が実質的に制限されることとなり、これは私的独占禁止法第15条第1項第1号の規定に違反するものである。
 八幡製鉄と富士製鉄が合併した場合の鋼矢板の取引分野についてみると、日本鋼管と川崎製鉄に対して、すみやかに、すでにみてきたとおりの技術の提供が、その技術の内容およびその提供方法について十分責任をもって、しかも生産数量、取引条件等販売を制約する協定を伴わずになされ、右合併期日以後さほど遠からぬ時期に、右両社が、合併会社の製造する鋼矢板と品質および歩留りの点で大差ない製品を、逐次、多形状にわたって製造、販売することのできる状態が作出されれば、現在、主として八幡製鉄と富士製鉄の二社による競争が行なわれ、これを追って、日本鋼管と川崎製鉄が「事実」第一、五記載の状況で競争している市場構造と比較して、これが実質的に変化するものとは認められない。
 八幡製鉄と富士製鉄および合併会社が、これまで述べてきたところを充足する措置をとれば、八幡製鉄と富士製鉄が合併してもそのことによって合併会社が鋼矢板の取引分野において市場支配的地位を獲得することは認め難いこととなる。

7. 判決、審判例
新日鉄合併事件−公取委 昭和44年10月30日同意審決
 「『当該合併によって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合』とは、当該合併によって、市場構造が合併前と比較して非競争的に変化し、特定の事業者が、市場における支配的地位を獲得することとなる場合をいう。しかして、ある事業者が市場を独占することとなったり、あるいは取引上、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右しうる力をもつこととなり、これによって、競争事業者が自主的な事業活動を行ないえないこととなる場合には、右の特定の事業者は、その市場における支配的地位を獲得することとなるとみるべきである。
 ところで、特定の事業者について市場支配的地位が形成されるかどうかは、当該の合併当事会社の属する業界の実情ならびに各取引分野における市場占拠率、供給者側および需要者側の各事情、輸入品の有無、代替品ならびに新規参入の難易等の経済的諸条件を考慮して判断されなければならない。」

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