平成21年独占禁止法の改正の概略
1. 平成21年独占禁止法の改正
平成21年6月3日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」が国会において可決され、成立しました。
同法は、平成21年6月10日に公布されました。施行期日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日(ただし、事業者団体等の届出制度の廃止など一部の項目については公布の日から起算して1か月を経過した日。)とされており、平成22年1月1日より施行されます。
本改正の主眼は、産業構造の変化に伴い、小売業界で横行するようになった不当な廉価販売等を規制することにあり、全体的には
競争政策の強化に繋がる改正であるといえます。
2. 改正の概要
(1) 課徴金制度等の改正
(2) 不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引き上げ
(3) 企業結合規制の改正
(4) その他
3. 課徴金制度等の改正
(1) 課徴金制度の適用範囲の拡大
これまで課徴金制度の対象は
不当な取引制限と
支配型私的独占に限られてきましたが、今回の改正で、1)
排除型私的独占(第7条の2第4項)、2)
共同の取引拒絶(第20条の2、第2条9項1号)、
差別対価(第20条の3、第2条9項2号)、
不当廉売(第20条の4、第2条9項3号)、
再販売価格の拘束(第20条の5、第2条9項4号)、3)
優越的地位の濫用(第20条の6、第2条9項5号)も、課徴金制度の対象とされました。
表:課徴金制度の適用範囲と課徴金算定率
| *カッコ書きは中小企業の場合 |
| . |
製造業等 |
小売業 |
卸売業 |
| 不当な取引制限 |
10%(4%) |
3%(1.2%) |
2%(1%) |
| 支配型私的独占 |
10% |
3% |
2% |
| 1) 排除型私的独占 |
6% |
2% |
1% |
| 2) 共同の取引拒絶等 |
3% |
2% |
1% |
| 3) 優越的地位の濫用 |
1% |
1% |
1% |
(2) 課徴金の割増し
不当な取引制限を
主導的事業者に対しては、課徴金を5割増しにすることになりました(第7条の2第8項)。
(3) 課徴金減免制度の拡充
違反行為に係る事実の報告および資料の提出を行った者に適用される課徴金減免制度の適用範囲が拡大されました。これまで、減免申請者数は先着順で3社でしたが、
調査開始前と開始後を併せて5社に拡大されます(第7条の2第12項)。また、
同一企業グループ内の複数の事業者による共同申請を認め、共同申請をした場合には減免申請者を一社と数えることになりました(第7条の2第13項、第8条の3)。
(4)
事業承継者に対する排除命令措置・課徴金給付命令
事業を承継した一定の企業に対しても排除命令措置・課徴金給付命令をなすことが可能となりました(第7条2項、第7条の2第25項)。
(5) 除斥期間の延長
排除命令措置・課徴金納付命令に係る
除斥期間を現行の3年から5年に延長されることになりました(第7条2項、第7条の2.27項、第8条の3、第20条の7)
この点は、アメリカやEUの競争法にならったものとされ、国際カルテル等においては企業のリスクが延長されたことを意味します。
4. 不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引き上げ
カルテル・入札談合等は後を絶たず、法人のみならず、
実際に違法行為を行う個人に対する抑止力を確保することが必要であること、他の経済関係法令(金融商品取引法や不正競争防止法等)・諸外国競争法との比較においても、罰則が軽かったことから、不当な取引制限等の罪に係る自然人に対する罰則が引き上げられました(第89条1項柱書)。
なお、アメリカの反トラスト法違反事件では、懲役10年以下とされ、実際に実刑判決も相当数出ています。
また、日本では、改正時点において独禁法違反事件での実刑判決は出ていませんが、今後改正法施行により、実刑判決が出るリスクが高まったとも言えます。
(現行法)
3年以下の懲役又は500万円以下の罰金
↓
(改正法)
5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
5. 企業結合規制の改正
(1)
株式取得の事前届出制の導入等(第10条2項)
|
1) |
会社の株式取得について、現行の事後届出制から他の企業結合と同様に事前届出制となりました。 |
|
2) |
届け出しなければならない株式の取得割合について、現行の3段階から2段階に簡素化されました。― 届出閾値の簡素化
(現行法) 3段階
当該企業単体ベースで、株式発行会社の総株主の議決権に対して、株式取得をなす会社の保有割合が10%、25%、50%をそれぞれ超えた際に報告しなければならない。
↓
(改正法) 2段階
当該企業グループベースで、株式発行会社の総株主の議決権に対して、株式取得をなす企業グループの保有割合が20%、50%をそれぞれ超える際には事前に届出しなければならない。 |
(2) 届出基準の改正
|
1) |
株式取得,合併等の届出基準が見直され、下記のように変更されました(第10条2項、第15条2項)。 |
| . |
株式取得会社・買収会社等 |
株式発行会社・被買収会社等 |
| 現行法 |
会社並びにその直接の国内の親会社及び子会社の総資産の合計額が100億円を超える場合 |
単体総資産が10億円超を越える場合(国内会社の場合)
|
| 改正法 |
企業グループの国内売上高の合計額が200億円を超える場合 |
会社及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合 |
|
2) |
外国会社についても国内会社と同様の届出基準を採用しました(現行法第10条2項の国内会社に限定する部分を削除)。 |
|
3) |
同一企業結合集団内の企業再編については、届出が免除されることになりました(第15条2項ただし書、第15条の2第2項ただし書、第15条の2第3項ただし書、第15条の3第2項ただし書、第16条2項ただし書)。 |
(3)共同株式移転に係る規定の新設
株式取得の事前届化に伴い、
共同株式移転に係る規則・届出制度が導入されました(第15条の3)。
6. その他
(1) 外国競争当局との情報交換に関する規定の導入(第43条の2)。
(2) 利害関係人による審判の事件記録の閲覧・謄写規定の見直し(第70条の15)。
(3) 差止訴訟における文書提出命令の特則の導入(第83条の4〜7、第94条の3)。
(4) 損害賠償請求訴訟における義務的求意見制度の見直し(第84条1項)。
(5) 職員等の秘密保持義務違反に係る罰則の引上げ(第93条、第39条)。
(6) 事業者団体届出制度の廃止(現行法第8条2項、3項、4項の削除)。
7. 改正法に対する企業の実務対応
| 改正独禁法は、競争政策を強化 |
 |
| 企業の独禁法違反リスクが増加 |
 |
| 企業の独禁法コンプライアンス、リスクマネジメントの充実が必要 |
| 1) |
独禁法コンプライアンス・プログラムの改訂 |
| 2) |
各部署毎の独禁法行動基準(マニュアル)の改訂−正当な営業行為と独禁法違反行為との境目が困難−萎縮効果を懸念 |
| 3) |
取締役会での決議、社内への周知徹底、研修会の実施 |
| 4) |
排除型私的独占−特にシェア50%超の企業は要注意 |
| 5) |
不公正な取引方法16類型のうち5類型が課徴金の対象 |
|
 |
・4類型−繰り返しが要件 |
| ・優越的地位の濫用−継続なら、繰り返し不要 |
|
| 6) |
下請法への適切な対処が要請 |
| 7) |
リーニエンシーの拡充−さらなるスピード・アップが要請、社内監査の充実、トップの迅速な経営判断 |
| 8) |
不当な取引制限等の罪の懲役刑の引上げ−実刑判決のリスクが増大 |
| 9) |
企業結合規制の見直し−M&Aへの対処に注意 |
| 10) |
審判記録の閲覧、謄写、差止訴訟への文書提出命令の特則 |
|
―独禁法をめぐる民事訴訟への対処が変化 |
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