御器谷法律事務所

「独禁法と私」 - その11、三光丸事件

  1. 薬の配置販売とその取引の拒絶
     三光丸(さんこうがん)という家庭用配置薬。配置販売業という業態をご存知でしょうか。
     そう富山や奈良で行われ全国に普及している薬の販売形態であり、長い歴史を有し、「売薬」とか、「置き薬」として「先用後利」のビジネス・モデルとして、薬事法にも規定されています。
     この配置薬の中でも三光丸は、数百年の歴史を有する有名ブランドで、三光丸本店のみが製造し、これを百数十店の小売が全国で販売していました。
     ところが、三光丸本店は、平成13年頃、各小売店の顧客台帳の提出を求め、さらに小売店の販売地域を厳格に制限することを求め、新たな契約書の締結を求めてきました。そして、これに応じられない小売店とは契約を解除すると通告してきました。
     各小売店にとっては、顧客台帳は配置販売業の生命線であり、業界内では懸場帳として取引の対象ともなっている重要な資産であり、又、厳格な販売地域の指定は販売の自由を奪うものでもありました。
     私達は、この小売店のうちの10社から依頼を受け、顧客台帳の提出は優越的地位の濫用となり、又、厳格な販売地域の制限は拘束条件付取引となり、これらを理由とする契約の解除は不当な単独の取引拒絶として独占禁止法に違反する、又、継続的取引契約の不当解除として、買主の契約上の地位が存することを主張いたしました。
     話し合いはつかず、速やかに裁判の申立をいたしました。


  2. 仮処分の申立
     独禁法に基づく差止請求は、平成13年4月に施行されましたので、弁護士会の内部でも誰が一番で認容判決や認定決定を取得するかが注目されていました。
     そんな中で、私達は、この三光丸事件を独禁法に基づく差止請求の一番乗りを目指し、仮処分の申立を平成14年早々にいたしました。
     本件も三光丸本店より新取引の継続を拒否され、在庫も減少したことから至急に三光丸の仕入れを求めたいところです。
     そこで、申立の趣旨としては、出荷停止をしてはならない、取引規定の第○条~第○条を削除せよ、との形にしました。
     仮処分は、緊急の案件ですので通常は2~3回の審尋期日で終わることが多いのですが、本件は合議で1年位を要し、結果は申立を却下するものでしたが、その理由が極めて不確かなものでした。裁判官自身が余り独禁法を理解していない感じを持ちました。
     その後、早速高等裁判所に不服申立をしましたが、高裁でもこの新しい制度である独禁法に基づく差止請求には不案内であったようで、終始和解を勧められました。
     その結果、高裁では本案訴訟が確定するまで取引の継続を認める、との有利な和解をすることができました。

  3. 本案訴訟―東京地方裁判所
     今回も独禁法に基づく差止請求を主位的主張と、一般民事上の地位確認を予備的請求として構成しました。つまり、
    (1)主位的に、独禁法第24条の差止請求として、三光丸の出荷停止の禁止と、必要数量の商品の引渡しを求め、
    (2)予備的に、契約解除の効力を争い、既存の商品供給の契約上の買主の地位にあることの確認を求めました。
    この地裁の審理も、勿論三人の裁判官の合議により行なわれましたが、特に裁判長は独禁法に不案内のようで、期日の度に和解を延々と勧めてきました。
     私達は、訴訟上の和解を得るために訴を提起した訳でもありませんので、裁判所の方針とは違いますが、あくまでも弁論を進め証人尋問を実施し平成16年4月15日判決が下りました。
     この地裁の判決は、優越的地位の濫用や厳格な地域制限は認定せず、且つ、独禁法第24条は直接的な作為義務は課すことまでは認めないとし、独禁法に基づく差止請求は否定しました。
     しかし、100年も継続した契約関係もあることから、本件の三光丸本店の解約は、合理的理由と相当期間の猶予が必要であるとして、原告らの契約上の地位を確認しました。
     いわば、差止を否定しつつ、買主の地位を認める、という和解的判決ともいえるでしょう。

  4. 東京高等裁判所での控訴審
     高裁もキャリアのある裁判官3名の合議ですが、キャリアのある方はかえって独禁法に不案内の方もおられ、本件の控訴審も延々と和解が継続されました。
     その結果、各小売業者の販売地域を限定し、取引継続期間も一定の年限を付し、ようやく和解が成立しました。
     問題発生から4~5年、取引の継続も訴訟期間を合計すると10年前後となり、原告10名の結束もあり、ようやく和解が成立し、取引上の利益も一応の確保ができたと思われます。
     独禁法に基づく差止請求の可否とは別に、このようなクライアント企業の一定の満足を得る訴訟上の和解も、解決の一方法として弁護士の醍醐味の一つとも云えるでしょう。
     (弁護士の守秘義務より、設定等を変えています。)

独禁法と私
1.慶應義塾大学時代  2.司法試験受験時代  3.司法修習生時代
4.イソ弁時代  5.東京で独立  6.初めてのカルテルの弁護
7.入札談合の弁護  8.官製談合の弁護  9.リーニエンシー
10.差止請求A案  11.三光丸事件  12.慶應L.S.
13.海外の独禁法  14.差止の示談交渉  15.初の差止決定
「独占禁止法セミナー」へ

執務方針| 弁護士紹介| 取扱事件 | 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ