スポーツ事故
1. スポーツ事故の問題点
なぜ、ボクシングで相手を殴っても暴行罪、傷害罪にならないのでしょうか。なぜ、ラグビーのタックルで相手を倒しても暴行罪、傷害罪にならないのでしょうか。なぜ、プロ野球でデッドボールをぶつけても暴行罪、傷害罪にならないのでしょうか。
通常は、故意に他人に暴行したり、傷害を負わせたりすると刑事上においては逮捕、起訴されて刑罰という刑事責任が科せられますし、民事上においては損害賠償という民事責任が生じます。
しかし、スポーツの最中に相手に暴行を加えたり、傷害を負わせたりしても原則的には刑事上、民事上の責任を負わないものとされています。その理由としては当該行為が違法ではないと考えられるからなのです。どうして違法行為ではない(法律用語では違法性が阻却されるといいます)のかというと、スポーツが正当業務行為、ないし正当行為であるとする見解と、スポーツ参加による被害者の承諾があるからという見解がありますが、いずれも違法性がないという結論は特には異なりません。
このように、スポーツ中に相手方に暴行したり、傷害を負わせたりしても刑事上、民事上の責任を負わないのは、それが社会的に相当な行為であるとされるからなのです。
2. 違法となる場合
従って、社会的に相当でないとされたときにはたとえスポーツ中であったとしても当該暴行や傷害についての刑事上、民事上の責任を負うことになります。
ですから、ボクシングにおいて拳ではなく肘打ちで相手に傷害を負わせた場合やラグビーにおいても相手を拳で殴って倒した場合、また、最初から打者の体にぶつけるためにデッドボールを投げた場合などは、いずれのケースにおいても傷害罪が成立し刑事上の責任を負うとともに、民事上においても損害賠償責任を負うことになるでしょう。
いずれにしましても、当該行為が社会的に相当な行為と言えるかどうかが違法性判断の一つのメルクマールとなるものと考えられます。
そして、その判断は個々の具体的な行為の態様や、試合の状況等総合的に検討されて違法か否かの判断がなされるものと考えられます。
もっとも、試合が中断された乱闘行為などの場合には、そもそもスポーツではないことから、その場合に行われた暴行、傷害行為については、当然当該行為を行った者は刑事上、民事上の責任を負うことになるでしょう。
3. 裁判例
最後に、スポーツ中の事故の裁判例とその中での裁判所の違法性阻却の判断について記載しておきます。
<東京地方裁判所 平成元年8月31日判決>
| 事案 : 野球の試合中の傷害事故(2塁手と走者が交錯して2塁手が負傷した)について加害者の不法行為責任を否定した事例 |
上記裁判例は、野球のようなスポーツは身体に対する多少の危険を包含するものであることから、競技中の行為によって他人に傷害を負わせる結果が生じたとしても、その競技のルールに照らし、社会的に容認される範囲内における行動によるものであれば、右行為は違法性を欠くと判断しております。
スポーツ中の傷害について、それがそのスポーツのルールに違反し社会的相当性も逸脱していると考えられる件につき、その被害者からの依頼を受け、示談交渉及び民事訴訟を提起したことがあり、また、学校の運動会の中での騎馬戦での生徒の怪我につき学校側の代理人として生徒側と示談交渉をしたこと等もありますので、この種事故についても
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