御器谷法律事務所

高山茶筌損害賠償請求事件
(東京高等裁判所平成19年3月30日判決)

事件の背景
(1)原告は、昭和36年中小企業等協同組合法により設立された生産協同組合であり、奈良県生駒市高山町において茶筌を販売する業者の集まりであり、加盟業者は約22名である。
 被告は、高山町あるいは周辺の職人20数人を抱えており、流儀物といわれる茶筌についてはこれらの職人に外注して製造している。これに対し、一般用の茶筌については、昭和56年ころから、韓国のソウル市の業者によって作られたものを輸入して販売している。
 そして、被告は、遅くとも平成12年1月ころ以降、韓国で製造された商品を含む茶筌5品目について、その容器にちょう付したラベルに「大和高山特産嬉撰茶筌諸流儀製造元」、「伝統工芸 高山茶筌 技術保存」及び「伝統工芸品 高山茶筌 技術保存 大和高山茶筌道具販売組合」と記載して販売してきた。
(2)公正取引委員会は、平成14年4月25日、被告の茶筌5品目の原産国について、景品・表示法4条3号に基づく原産国告示2項に違反する表示として、排除命令をした。
(3)原告は、平成17年、被告に対し、独占禁止法25条に基づき、300万円の損害賠償請求訴訟を提起した。

法の適用
東京高等裁判所は、平成19年3月30日、原告の請求を80万円認容した。その争点に関する判旨は、次のとおり。
(1)不当表示の有無について、
 原産国告示では、「原産国」とは、その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国をいうとしている。被告は前記1(2)アの茶筌の製造工程のうちほぼ(7)の腰並べと(8)の仕上げの一部までが韓国で行われたものを輸入し、(8)の仕上げ(最終的な穂先の修正・製品の調整等)のみを高山地区で行っているところ、仕上げの工程は茶筌について実質的な変更をもたらす行為とはいえないから、被告の製品の原産国は韓国であると認められる。
 被告は、韓国で製造され、韓国が原産国であるものを、我が国の高山地区で製造されたものであるかのように表示したもので、原産国告示に反する表示をしたものであり、景品・表示法4条3号の不当な表示をしたものと認められる。
(2)損害の発生について
 不当表示の規制は、一般消費者の利益を保護することを目的とするが(景品・表示法1条)、公正な競争を確保することは、同時に、競争関係に立つ事業者をも保護する結果をもたらすものであり、また、商品の信用等を保護することは競争関係に立つ事業者を保護する趣旨を含むものと考えられる。
 また、被告の不当表示により、高山茶筌の信用・ブランドとしての価値ないし信用性が損傷され、低下したものと認められ、高山茶筌の製造事業者は、自らの製造する高山茶筌の信用・ブランドとしての価値が低下したことによる影響を受けたものというべきである。
 したがって、被告の不当表示により、高山茶筌の一般消費者が被害を受けたのと同時に、高山茶筌を高山地区で製造してきた事業者が被害を受け、損害を被ったことも明らかである。
 原告は、生駒地区の伝統工芸品である高山茶筌を守り育てることをも実質上の目的とする団体であるから、韓国で製造された茶筌について我が国の生駒地区で製造されたものであるかのような表示の商品が販売されることにより、高山茶筌の信用、ブランドとしての価値が損傷され低下した場合には、そのことにより多大の影響を受ける団体であり、原告の名誉ない社会的経済的信用が侵害されるものということができる。
 法人の名誉が侵害され、無形の損害が生じた場合でも、同損害については民法710条の適用があると解される(最高裁判所昭和39年1月28日第一小法廷判決・民集18巻1号136頁参照)。そして、このことは、法人の社会的経済的信用が侵害された場合も同様に解することができる。
 被告の不当表示により、高山茶筌の信用・ブランドとしての価値が損傷され低下したものであり、これによって一般消費者及び原告の組合員である高山茶筌の製造事業者が損害を被ったことは明らかであるが、同時に、高山茶筌の保存・普及・発展をも目的とする事業者の団体であってそのための活動を行ってきた原告も、その名誉ないし社会的経済的信用を侵害され、無形の損害を被ったものと認められる。
 損害額
 前記認定の事実を総合すると、被告が相当長期にわたって韓国産の茶筌を高山茶筌であると表示してきたことにより、高山茶筌の保存・普及・発展のために活動してきた原告が多大の無形損害を被ったものと認められる(また、被告が伝統的工芸品であると誤認されかねない表示をしてきたことにより、原告の損害は更に大きなものということができる。)。
 他方、被告は本件排除命令を確定させ、これに従って命じられた措置を採ったこと、また、被告は、不当表示によって相当の利益を得ていることが認められるものの、韓国の製造者に対しては技術指導をしており、その品質には一定の配慮をしていることなどの事情も認められる。
 以上にかんがみ、その他本件に現れた事情を総合考慮すると、原告の受けた無形損害に対する賠償としては80万円をもって相当とする。

本件のポイント
(1)原産国告示では、原産国とはその商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国をいう。
(2)平成17年当時、景表法違反行為による排除命令は独占禁止法上の不公正な取引方法による排除措置命令とみなされ、独禁法25条に基づく損害賠償請求訴訟が可能であった。
(3)不当表示規制は、一般消費者の利益を保護することを目的とするとともに、競争関係に立つ事業者を保護する趣旨を含む。
(4)事業者団体である原告は、本件不当表示によりその名誉ないし社会的経済的信用を侵害され、無形の損害を被ったものであり、その賠償としては80万円をもって相当とした。



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