御器谷法律事務所

鶴岡灯油訴訟
(最高裁判所 平成元年12月8日判決)

事件の背景
(1)昭和47年~48年の第一次オイルショックの際、石油元売12社は、5回にわたり、石油製品の値上げを協定し、これを実施した。
(2)公正取引委員会は、昭和49年2月22日、石油元売12社の行為を不当な取引制限として各社の応諾のもと勧告審決をした。
(3)山形県鶴岡市等の消費者は、石油元売業者らに対し、価格協定等のために高くなった灯油を購入し損害を被ったとして、民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

法の適用

 最高裁判所は、次の理由で、消費者の請求を棄却した。
(1) 独占禁止法違反行為と損害賠償請求の可否について
 独占禁止法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は、当該行為が民法上の不法行為に該当する限り、これに対する審決の有無にかかわらず、別途、一般の例に従って損害賠償の請求をすることを妨げられないものというべきである。
(2) 消費者の民法709条に基づく損害賠償請求について
 独占禁止法違反行為(不当な取引制限)を責任原因とする不法行為訴訟においては、その損害賠償請求をすることができる者を不当な取引制限をした事業者の直接の取引の相手方に限定して解釈すべき根拠はなく、一般の例と同様、同法違反行為と損害との間に相当因果関係の存在が肯定できる限り、事業者の直接の取引の相手方であると、直接の相手方と更に取引した者等の間接的な取引の相手方であるとを問わず、損害賠償を請求することができるものというべきである。
(3) 勧告審決と損害賠償請求との関係について
 独占禁止法違反の行為を不法行為の責任原因とする損害賠償請求訴訟において、右違反行為の排除措置を命ずる勧告審決があったことが立証された場合には、違反行為の存在について、いわゆる事実上の推定が働くこと自体は否定できないものというべきである。
 しかし、上告人ら石油元売12社としては、決して独占禁止法違反行為を認めたために勧告を応諾したのではなく、右の情勢からみて勧告の応諾を拒否して審判・訴訟で争うのは石油業界の置かれた状況を悪化させることになって得策ではなく、勧告を応諾したとしても同法違反行為を認めることにはならないから勧告を応諾したほうがよいという通産省当局による強力な慫慂があり、また、同法違反行為の存否を長い時間、多大の費用をかけて争うことによるデメリットを考慮し、その結果、勧告を応諾したものであることを主張し、・・・上告人らのした勧告の応諾は、違反行為の存否とかかわりなく行われたことが窺われるから、前記1の説示に照らし、本件勧告審決が存在するとの事実のみに基づいて、審決書に記載された上告人ら石油元売12社による本件各協定の締結という独占禁止法違反行為が存在することを推認することは許されないことになるものというべきである。
(4) 消費者の主張、立証について
(一)価格協定に基づく石油製品の元売仕切価格の引上げが、その卸売価格への転嫁を経て、最終の消費段階における現実の小売価格の上昇をもたらしたという因果関係が存在していることが必要であり、このことは、被害者である最終消費者において主張・立証すべき責任があるものと解するのが相当である。
次に、(二)元売業者の違法な価格協定の実施により商品の購入者が被る損害は、当該価格協定のため余儀なくされた支出分として把握されるから、本件のように、石油製品の最終消費者が石油元売業者に対し損害賠償を求めるには、当該価格協定が実施されなかったとすれば、現実の小売価格(以下「現実購入価格」という。)よりも安い小売価格が形成されていたといえることが必要であり、このこともまた、被害者である最終消費者において主張・立証すべきものと解される。もっとも、この価格協定が実施されなかったとすれば形成されていたであろう小売価格(以下「想定購入価格」という。)は、現実には存在しなかつた価格であり、これを直接に推計することに困難が伴うことは否定できないから、現実に存在した市場価格を手掛かりとしてこれを推計する方法が許されてよい。そして、一般的には、価格協定の実施当時から消費者が商品を購入する時点までの間に当該商品の小売価格形成の前提となる経済条件、市場構造その他の経済的要因等に変動がない限り、当該価格協定の実施直前の小売価格(以下「直前価格」という。)をもって想定購入価格と推認するのが相当であるということができるが、協定の実施当時から消費者が商品を購入する時点までの間に小売価格の形成に影響を及ぼす顕著な経済的要因等の変動があるときは、もはや、右のような事実上の推定を働かせる前提を欠くことになるから、直前価格のみから想定購入価格を推認することは許されず、右直前価格のほか、当該商品の価格形成上の特性及び経済的変動の内容、程度その他の価格形成要因を総合検討してこれを推計しなければならないものというべきである。更に、想定購入価格の立証責任が最終消費者にあること前記のとおりである以上、直前価格がこれに相当すると主張する限り、その推認が妥当する前提要件たる事実、すなわち、協定の実施当時から消費者が商品を購入する時点までの間に小売価格の形成に影響を及ぼす経済的要因等にさしたる変動がないとの事実関係は、やはり、最終消費者において立証すべきことになり、かつ、その立証ができないときは、右推認は許されないから、他に、前記総合検討による推計の基礎資料となる当該商品の価格形成上の特性及び経済的変動の内容、程度その他の価格形成要因をも消費者において主張・立証すべきことになると解するのが相当である。
 本件各協定の実施当時から被上告人らが白灯油を購入したと主張している時点までの間に、民生用灯油の元売段階における経済条件、市場構造等にかなりの変動があつたものといわなければならない。そうすると、直前価格をもつて想定購入価格と推認するに足りる前提要件を欠くものというべきであるから、直前価格をもつて想定購入価格と推認した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

本件のポイント
(1)カルテルによって損害を被った被害者は、民法709条ないし独占禁止法25条に基づいて損害賠償請求をすることができる。但し、その要件や手続は各々異なることがある。
(2)消費者は、価格協定による元売仕切価格の引上げが、卸売価格への転嫁を経て、現実の小売価格の上昇をもたらしたという因果関係を主張、立証すべきである。
(3)消費者が被る損害は、現実購入価格と想定購入価格により決せられ、この想定購入価格は直前価格と推認できる。
 しかし、小売価格の形成に影響を及ぼす顕著な経済的要因等の変動があるときは、このような事実上の推定も働かせることはできない。



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