御器谷法律事務所

刑 事 事 件 - 公判前整理手続

1. 公判前整理手続とは、
(1)意義
 公判前整理手続とは、平成21年5月までに実施される裁判員事件、あるいはそれ以外の事件でも事案が複雑であり証拠の量も多く、第1回公判期日前に争点及び証拠の整理が必要な事件について、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要がある場合に行われる、公判準備のための手続のことです(刑事訴訟法316条の2)。
 刑事裁判の計画的・迅速的な進行のための準備手続の重要性については以前から主張されていましたが、裁判員制度が始まれば、連日開廷が可能となるよう公判前に争点と証拠を絞り込むことが是非とも必要となるため、公判前整理手続が平成17年11月1日から施行されたのです。
(2)関与する当事者
 裁判所は、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴いて、公判前整理手続に付する決定をなし、手続を主宰します(法316条の2、規則217条の2T)。
 そして、公判前整理手続は、被告人に弁護人がなければ手続を行えず(法316条の4)、検察官または弁護士の期日への出席が必要となります(法316条の7)。
 他方、被告人も、公判前整理手続期日に出頭することができます(法316条の9)。

2. 公判前整理手続の概要
(1)手続の開始
 裁判所の決定により公判前整理手続が開始することは、前述しました。
(2)[検察官その1] 証明予定事実の提出及び証拠請求
 検察官は、事件が公判前整理手続に付されたときは、その証明予定事実(公判期日において証拠により証明しようとする事実をいう。)を記載した書面を、裁判所に提出し、及び被告人又は弁護人に送付しなければなりません(法316条の13T)。この場合においては、当該書面には、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調べを請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に事件について偏見又は予断を生じさせるおそれのある事項を記載することができません(同条)。
 この証明予定事実とは、刑事公判において検察官がなす冒頭陳述と同じであり、これによって、検察官が後の公判で証拠により証明しようとする事実が公判前に明らかとなります。証明予定事実を明らかにするにあたっては、主要な証拠との関係を具体的に明示することが必要です(規則217条の20)。
 そのうえで、検察官は、証拠の取調べ請求をします(法316条の13U)
(3)[検察官その2] 検察官請求証拠の開示
 検察官は、自らが取調べ請求した証拠につき、被告人または弁護人に対し、当該証拠を開示しなければなりません(法316条の14)。
 この段階の開示により、1)証拠書類または証拠物、2)証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の氏名および住所、そして証人等の後述録取書のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるものが開示されます。
(4)[被告人側その1] 類型証拠の開示請求
 次に、被告人又は弁護人は、法が定める類型証拠について開示請求をなし、検察官は、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて、その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、開示をしなければなりません(法316条の15)。
 ここで類型証拠とは、1)証拠物、2)検証調書、3)実況見分調書、4)鑑定書等、5)検察官が証人尋問請求した者の供述録取書等、6)検察官が証人尋問請求した者の供述録取書等の供述者であって、当該書面の同意がなされない場合には、検察官が証人尋問を予定している者の供述録取書等、7)5)6)の他、被告人以外の者の供述録取書等であって、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの、8)被告人の供述録取書等、9)取調べ状況の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であって、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べの状況を記録したもの(被告人に係るものに限る)の9類型となっています。
(5)[被告人側その2] 検察官請求証拠に対する意見表明
 被告人又は弁護人は、上記(3)(4)の証拠の開示を受けたときは、法第326条の同意をするかどうか又はその取調べの請求に関し異議がないかどうかの意見を明らかにしなければなりません(法316条の16)。
(6)[被告人側その3] 主張予定事実の明示及び証拠請求
 次に、被告人又は弁護人は、被告人側として公判にて証明を予定している事実(主張予定事実)、その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければなりません(法316条の17T)。また、この場合には、証明予定事実を証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならず(同条U)、請求した証拠は検察官に開示しなければなりません(法316条の18)。
 被告人側が、証明予定事実や事実上・法律上の主張を明らかとすることによって、公判での争点が明確となり、争点が絞り込まれることになるわけです。
(7)[検察官その3] 被告人側請求証拠に対する意見表明
 検察官は、被告人側から開示を受けた証拠につき、法第326条の同意をするかどうか又はその取調べの請求に関し異議がないかどうかの意見を明らかにしなければなりません(法316条の18)。
(8)[被告人側その4] 主張関連証拠の開示請求
 次に、被告人又は弁護人は、(3)及び(4)として開示を受けた証拠以外の証拠であって、主張予定事実、すなわち争点に関連すると認められるものについて開示請求をなし、検察官は、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、証拠開示をしなければなりません(法316条の20)。
 被告人側にとっては、これら(3)、(4)及び(8)といった数段階の証拠開示請求が認められたことで、公判前という早期に検察官側証拠へアクセスできる途が拡がったことが、公判前整理手続導入による大きなメリットだといえます。
 なお、以上に述べた証拠開示手続につき調整が必要となった場合には、裁判所は、当該証拠の開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することを決定することができます(法316条の25T)。この決定に対し不服がある者は、即時抗告を申し立てることができます(同条V)
(9)手続の終了
 裁判所は、公判前整理手続を終了するに当たり、検察官及び被告人または弁護人との間で、事件の争点及び証拠の整理の結果を確認しなければなりません(法316条の24)。

3. 公判前整理手続を巡る裁判例
 最判平成19年12月25日決定が、証拠開示の対象となる「証拠」の意義に関し、以下のような判断を示したことが注目されます。
 「そこで検討すると,公判前整理手続及び期日間整理手続における証拠開示制度は,争点整理と証拠調べを有効かつ効率的に行うためのものであり,このような証拠開示制度の趣旨にかんがみれば,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含むと解するのが相当である。
 公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあることは所論のとおりであり,これを証拠開示命令の対象とするのが相当でないことも所論のとおりである。しかしながら,犯罪捜査規範13条は,『警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。』と規定しており,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,同条により備忘録を作成し,これを保管しておくべきものとしているのであるから,取調警察官が,同条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができる。これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である。」

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