御器谷法律事務所

独禁法-課徴金


1. 課徴金とは、
 カルテルや入札談合等の不当な取引制限や私的独占、一部の不公正な取引方法が行なわれたときに、公正取引委員会が事業者や事業者団体の構成事業者等に対して課す、行政上の措置としての上記独禁法違反によるやり得を防止することによる経済的利得の国庫への納付金のこと(法§7の2、§8の3)。

2. 課徴金の趣旨
 カルテルや入札談合、さらには私的独占や一部の悪質な不公正な取引方法等を行なった事業者からその独禁法違反行為による経済的利得を徴収し、違反行為の抑制を図る。
 公正取引委員会による行政上の措置であり、刑罰ではない。
 課徴金は、税務上経費とはならない。
 被害者からの損害賠償請求ないし不当利得返還請求とは別個のもの。

3. 対象となる不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法等とは、
(1) 不当な取引制限-次のカルテル、談合
 1) 対価に係るカルテル、入札談合
  価格カルテル、入札事業者で価格を調整するカルテル(入札談合)等。
 2) 実質的に供給量を抑制することにより対価に影響のあるカルテル
  生産量、出荷量、販売量等に関する数量カルテル。
(2) 私的独占
 1) 支配型私的独占
平成17年独禁法改正により、支配型私的独占のうち、対価に係わるもの、供給量・市場占有率・取引の相手方を制限することにより対価に影響するものが追加。
 2) 排除型私的独占
平成21年独禁法改正により、すべての排除型私的独占が課徴金の対象となりました。
(3) 不公正な取引方法の一部
 平成21年独禁法改正により、不公正な取引方法のうち次の類型が課徴金の対象となりました。
1) 不当廉売(法第2条9項3号)、差別対価(同2号)、共同の取引拒絶(同1号)、再販売価格の拘束(同4号)
これらの4類型の不公正な取引方法については、同一の違反行為類型につき公取委の排除措置命令ないし課徴金納付命令を10年以内に繰り返した場合に、課徴金の対象となります。
2) 優越的地位の濫用(法第2条9項5号)
継続して行う場合に、課徴金の対象となります。

4. 課徴金の算定
(1) 算定方法
 (カルテルの実行期間中の売上額)×(業種区分による一定率)=課徴金
(2) カルテルの実行期間
 事業者がカルテルの実行行為としての事業活動を行なった日(始期)から、カルテルの実行行為としての事業活動がなくなった日(終期)までの期間。3年間まで。
(1)始期- カルテルとしての合意が成立した日ではなく、カルテルとしての実行行為(値上げ等)が現実になされた日。
(2)終期- 事業者がカルテルによる申合わせ等を実際に破棄する等の措置をとった日。公正取引委員会の立入後事業者が自らカルテルを破棄する決議をし、これに公証役場で確定日付をとる等の方法をとることもあります。
(3) 売上額
 価格カルテル等の対象となった地域における当該商品又は役務の売上額。
 一定の値引、返品、割戻しは、売上額から控除される。
 なお、優越的地位の濫用の場合には、特定の商品等の売上額が課徴金の基礎となるのではなく、この違反行為にかかわる取引先との取引額全体が基礎となり、その1%に課徴金が課される点が他の違反類型と異なりますので、注意を要します(法第20条の6)。
(4) 業種区分による課徴金の算定率
課徴金算定率(かっこ書きは中小企業)
. 製造業等 小売業 卸売業
不当な取引制限 10%(4%) 3%(1.2%) 2%(1%)
支配型私的独占 10% 3% 2%
↓ 平成21年改正法で追加
排除型私的独占 6% 2% 1%
不当廉売、差別対価等 3% 2% 1%
優越的地位の濫用 1%
再犯企業(過去10年間に課徴金の支払)には、5割増し(法第7条の2、7項)。

 上記中小企業とは、
 1) 製造業、建設業、運輸業等(卸売、サービス業、小売を除く)
  資本金等3億円以下、又は従業員300人以下
 2) サービス業
  資本金等5千万円以下、又は従業員数100人以下
 3) 小売業
  資本金等5千万円以下、又は従業員数50人以下
 4) その他
  政令で業種ごとに詳細に規定
(5) 主導的事業者に対する課徴金は、5割増し(法第7条の2、8項)
1)不当な取引制限、つまり、カルテルや入札談合の場合に適用
カルテルや談合における仕切り役等の主犯格の事業者への課徴金を増額して、より厳しい制裁によりカルテルや談合の抑止をねらった趣旨。
2)主導的事業者とは、
1. 単独で又は共同して、当該違反行為をすることを企て、かつ、他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は(そそのか)すことにより、当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者
2. 単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者
3. 前二号に掲げる者のほか、単独で又は共同して、次のいずれかに該当する行為であって、当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者
イ) 他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は(そそのか)すこと。
ロ) 他の事業者に対し当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く)。
3)主導的事業者が違反行為を繰り返した場合
この場合には、課徴金の算定率は、1.5×1.5=2.25倍ではなく、単純に2倍となります(法第7条の2、9項)

5. 課徴金の納付手続(法§50)
(1) 事前通知(法§50(6)-法§49(3)~(5))
公取委は、課徴金納付命令をしようとするときは、あらかじめ、納付を命じようとする課徴金の額、課徴金の計算の基礎、違反行為、期限等を書面にて通知し、意見申述と証拠提出の機会を付与しなければならないものとされています。
(2) 課徴金納付命令書
公取委の課徴金納付命令書には、納付すべき課徴金の額、その計算の基礎、違反行為、納期限(3ヶ月後)を記載することとされています。
そして、課徴金納付命令が確定したときは、14.5%の延滞金が付き、督促や国税滞納処分の例により強制徴収されます。
(3) 納付命令への不服
課徴金納付命令書の謄本の送達から60日以内に、公取委に対して審判を請求することができます。
なお、課徴金納付命令に対して審判の請求をしたときも、課徴金の納付義務自体は免れないものとされ、審判中は4%+公定歩合等の延滞金はあるものの、審判中は督促や強制徴収はないものとされています。
また、審決により課徴金納付命令が取消されたときは、納付済みの金額に延滞金と同率の金額を加算して還付されることとなります。

6. 課徴金の運用の概略
(1) 昭和52年~平成14年度、課徴金納付命令
310件、6261名、課徴金合計は約778億円
(2) 対象の殆どが、価格カルテルと入札談合
(3) カルテルによっては課徴金が巨額となることがあります。
例えば、平成2年度の課徴金合計は約125億となっています。
(4) 平成18年3月には、橋梁談合事件で、公取委が横河ブリッジら44社に対して総額129億円の課徴金納付命令を出しました。
(5) 平成19年3月、ごみ焼却炉談合事件で、公取委が三菱重工ら5社に対し過去最高となる約270億円の課徴金につき事前通知。5社は不服申立へ(審判中)。
(6) 平成21年2月、塩化ビニール管カルテル事件で、積水化学工業に対し、1社での最高額である79億円の課徴金納付命令。
(7) 平成21年4月の公取委発表によれば、平成20年度の課徴金納付命令の総額が270億円余となりました。
(8) 平成21年8月、亜鉛めっき鋼板カルテル事件で、日鉄住金鋼板ら3社に対し、過去2番目の計155億円の課徴金納付命令。カルテルとしては過去最高額。
(9) 平成22年5月、NTT東日本・西日本に対する光ファイバーケーブルの販売カルテル事件で、古河電気工業、住友電気工業、フジクラ等に対して、公取委が排除措置命令と計160億円位の課徴金納付命令。この課徴金は過去2番目の高額。価格カルテルとしては最高額。
(10) 平成21年度の課徴金の総額が360億円余と過去最高額となりました。平成17年改正による課徴金の引き上げとリーニエンシーによるものと考えられます。
(11) 平成22年11月、電線販売価格カルテル事件で、矢崎総業、住電日立ケーブル、フジクラ・ダイヤケーブル、古河エレコムに対し、計108億円の課徴金納付命令。このうち矢崎総業への72億円は過去2番目の多額。
(12) 平成22年度の課徴金の総額が720億円余と過去最高額となりました。内訳は課徴金納付命令が362億円余、課徴金納付の審決が357億円余です。
(13) 平成24年1月、自動車用ワイヤーハーネス・カルテル事件で、矢崎総業96億円、住友電工21億円、フジクラ11億円、3社計128億円の課徴金納付命令。古河電工はリーニエンシーを行使し、課徴金を全額免除された。

7. 企業の実務対応-課徴金に対して
(1)  平成21年独禁法改正の目玉は、課徴金の対象となる行為類型が排除型私的独占、不公正な取引方法の一部に拡充されたことです。
 このことは、企業行動において独禁法違反のリスクが拡大し、且つ課徴金という制裁が強化されたことを意味します。
(2)  従って、企業としては課徴金を課される違反行為類型のみならず、独禁法違反を行わないコンプライアンス体制の構築を見直さなければならないでしょう。
 そして、独禁法違反行為を発見したときは、迅速なリーニエンシーの発動をも考えるべきであり、その点企業のトップとしての経営判断が試されると思われます。
(3)  課徴金の対象となる独禁法違反行為としては、やはりカルテルと入札談合が従前通り多数を占めると考えられますので、カルテルと入札談合についてはシェアの高い商品や役務を提供する大企業、寡占体制の業界、公の入札に関与している企業(建設、メンテ、環境等)等は要注意でしょう。
(4)  支配型及び排除型私的独占については、業界のリーディング・カンパニー等による私的独占行為はより厳しいコンプライアンスの基準が求められるでしょう。特にその独占力の乱用と考えられる企業活動については、一般の企業とは異なる基準が要請されることがあります。
 それは、企業の営業活動、顧客へのアプローチ、コンペティターとの競争手段、リベート政策、独自のシステムの運用等多岐にわたるでしょう。
(5)  不当廉売、差別対価、共同の取引拒絶、再販売価格の拘束については、同一の違反行為に関する排除措置命令ないし課徴金納付命令の10年以内における繰り返しが要件とされていることから、一度そのような命令を課された企業は特に注意を要するでしょう。
(6)  優越的地位の濫用については、継続が要件となっているにせよ、この種の違反行為はその要件がかなり緩やかに規定されているため、実務上は違反行為か否かの見極めが困難な例も多く、企業においては、営業、仕入、発注等の各部署においてこの種の違反行為となる例、違反とならない例、どちらとも言えない例等を各場面において具体例をまじえてマニュアル化しておくべきでしょう。
 なお下請取引においては、別途下請法による親事業者の4つの義務と11の禁止事項等は下請担当者における研修及びその実行が強く要請されるでしょう。

8. 判決、審判例
ラップ価格協定刑事事件-東京高裁 平成5年5月21日判決
 「独禁法による課徴金は、一定のカルテルによる経済的利得を国が徴収し、違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによって、社会的公正を確保するとともに、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために執られる行政上の措置であって、カルテルの反社会性ないし反道徳性に着目しこれに対する制裁として科される刑事罰とは、その趣旨、目的、手続等を異にするものであり、課徴金と刑事罰を併科することが、二重刑罰を禁止する憲法39条に違反するものではないことは明らかである」

目隠しシール入札談合不当利得返還請求事件
-東京高裁 平成13年2月8日判決
「談合による入札が無効であることは、入札者心得書にも記載されており、官報公示でも明らかになっている。・・・入札を有効とすると、国民全体が不利益を受けるのである。したがって、入札制度の趣旨それ自体からみて、このような談合に基づく入札は当然無効であり、これを契約の申込みであるとしてされる契約も、その公序良俗違反性を別途検討するまでもなく、当然に無効であるといわねばならない」
 「課徴金制度は、カルテル行為があっても、その損失者が損失や利得との因果関係を立証して不当利得返還請求をすることが困難であることから、カルテル行為をした者に利得が不当に留保されることを防止するために設けられたものであり・・・」
 「現に損失を受けている者がある場合に、その不当利得返還請求が課徴金の制度のために妨げられる結果となってはならない。」

金門製作所事件-公取委 平成11年7月8日勧告審決
 「被審人は、本件家庭用マイコンメーターについて、自ら製造することはないものの、(1)蓄積された高度の研究開発技術に基づき、実際に製品計画・製品開発活動を主体的に行い、(2)主要部分について自ら調達・支給する等、技術面も含めて関与し、(3)需要動向に対応する生産計画にとどまらず、製造面での指示、承認等、技術面も含めて製造工程に具体的に関与して、東京理化及び白河精機に製品を製造させ、製造業者の立場から継続的・組織的に技術的関与を行ってきたものというべきである。これに加えて、本件の場合、さらに、被審人は、実際に製造された家庭用マイコンメーターの全量を東京理化から引き取り(買い受け)、自己の商標(ブランド)を使用する等して自己の製品として一手に販売しているものであって、自らを製造業者と位置付け、かつ、取引先からもそのように認識されているものである」

カンセイ事件-東京高裁 平成11年1月29日判決
 「独占禁止法7条の2について、平成3年の法改正の経緯、その立法趣旨、中小企業関係法令との整合性、会社と協業組合その他の組合との相違及びその文理等を総合勘案すると、同条第2項各号の『会社及び個人』に協業組合が含まれると解することはできず、協業組合である原告に対する課徴金の算定については同条第1項が適用されるべきであることが明らかである」

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