御器谷法律事務所

独禁法-刑事告発と犯則調査


1. 独占禁止法における刑事罰には、
(1) 私的独占、カルテル(不当な取引制限)の罪には、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(法§89)
(2) 両罰規定として法人等には、5億円以下の罰金(法§95)
   等が規定されています。
(3) 不公正な取引方法には、刑罰は規定されていません。

2.刑事罰の対象
(1) カルテル等を行った事業者(会社、個人)。会社については罰金刑。
(2) 事業者団体。
(3) カルテル等を実際に行った会社の担当者、役員。
(4) 入札談合事件では、下水道事業団の職員が幇助犯とされたことあり。また、いわゆる官製談合事件において、官側担当職員が共同正犯とされたことあり。

3.公正取引委員会の専属告発権

(1) 公正取引委員会は、独占禁止法に違反する犯罪があると考えるときは、検事総長に告発しなければならないものとされています(法§73)。
(2) この犯罪の第一審裁判は、東京高等裁判所となります(法§85)。

4. 公正取引委員会の刑事告発の方針
 公正取引委員会は、平成17年10月、独禁法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関して、次の方針を公表しています。
1 (1) 法改正後においても、
国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案
違反を反復して行っている、排除措置に従わないなど行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案
について、積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととする。
(2) ただし、今回の法改正により新たに課徴金減免制度が導入されたことに伴い、同制度を有効に機能させる観点から、次の者については告発を行わないこととする。
調査開始日前に最初に課徴金の免除に係る報告及び資料の提出を行った事業者
当該事業者の役員、従業員等であって当該独占禁止法違反行為をした者のうち、当該事業者の行った公正取引委員会に対する報告及び資料の提出並びにこれに引き続いて行われた公正取引委員会の調査における対応等において、当該事業者と同様に評価すべき事情が認められるもの
2 犯則事件の調査
今回の法改正により新たに犯則調査権限が導入されたところ、前期1(1)ア又はイに該当すると疑うに足りる相当の理由のある独占禁止法違反被疑事件について、犯則調査を行い、当該調査の結果、前期1(1)ア又はイに該当する犯則の心証を得た場合に、告発することとする。
3 告発問題協議会
告発に当たっては、その円滑・適正を期するため、検察当局との間で「告発問題協議会」を開催し、当該個別事件に係る具体的問題点等について意見・情報の交換を行うこととする。

5. 主な刑事告発の事例
(1) 石油価格カルテル-'74年、罰金、懲役6月~10月(執行猶予2年)
(2) 石油生産調整事件-'74年、無罪
(3) 業務用ラップ価格カルテル-'91年11月、罰金600万~800万円、
懲役6月~1年(執行猶予2年)
(4) 社会保険庁目隠しシール談合-'93年2月、罰金400万円
(5) 下水道事業団談合-'95年3月等、罰金4000万円~6000万円、
懲役8月~10月(執行猶予2年)
(6) 東京都発注水道メーター談合-'97年2月、罰金500万~900万、
懲役6月~9月(執行猶予2年)
(7) ダクタイル水道管カルテル-'99年2月、罰金3000万~1億3000万円、
懲役6月~10月(執行猶予2年)
(8) 防衛庁ジェット燃料談合-'99年10月
(9) 東京都発注水道メーター談合-2003年7月、担当者4人を逮捕
懲役1年2月(執行猶予3年)、罰金3000万円等
(10) 橋梁談合-2005年5月、8社告発、14人逮捕
2006年11月判決:23社に罰金合計64億8千万円(最高額は罰金6億4千万円)、8人の被告人に執行猶予付き判決(懲役2年6ヶ月執行猶予4年等)。2008年7月判決:元日本道路公団副総裁に独禁法違反と背任罪で懲役2年6ヶ月、執行猶予4年。
(11) し尿処理施設工事入札談合-2005年5月、6月、11社6人を告発
(12) 名古屋市地下鉄談合事件初めてゼネコン5社告発
名古屋地検特捜部が5人逮捕。リーニエンシー適用ゼネコンの刑事告発はせず。
2007年10月判決;仕切り役が懲役3年執行猶予5年、O組が罰金2億円等。ゼネコン初の有罪判決。
(13) 緑資源機構入札談合事件-2007年11月、担当理事に懲役2年、執行猶予4年間の判決。担当課長は懲役1年6月執行猶予3年、入札業者は罰金9千万~4千万円、業者担当者は懲役8月執行猶予3年等。
(14) 名古屋市地下鉄談合事件-ゼネコンにつき、刑事事件の罰金の半額を課徴金の額から減額する規定を初めて適用。
(15) 亜鉛めっき鋼板カルテル事件-2008年11月、4社の価格カルテルにつき、3社を’91年以来17年ぶりの刑事告発。JFE鋼板のリーニエンシーによる。
(16) ベアリング・カルテル - 2012年6月、日本精工、NTN、不二越と担当幹部7人を刑事告発。

6. アメリカにおけるカルテルの摘発
 アメリカにおいては、カルテルにつき日本とはくらべものにならない位厳しい制裁が課せられることがあります。下記は日本企業が対象となった例です。
(1) 1999年9月、T薬品工業がビタミンのカルテルで7,200万ドルの罰金。
(2) 2001年5月、M商事が電炉用黒鉛電極のカルテルで1億3,400万ドルの罰金。
(3) 2004年8月、D化学工業の食品防腐剤ソルビン酸国際カルテルで5,300万ドルの罰金とともに、同社邦人社員が禁固3ヶ月の実刑で収監へ、との報道あり。

7. 犯則調査制度の導入
 独占禁止法の平成17年の改正によって、公取委に従来よりの行政調査権の他に犯則事件についての犯則調査権が与えられることとなりました。
 独禁法の第12章として「犯則事件の調査等」が設けられました。
 法第101条(1)は、「公正取引委員会の職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者若しくは参考人に対して出頭を求め、犯則嫌疑者等に対して質問し、犯則嫌疑者等が所持し若しくは置き去った物件を検査し、又は犯則嫌疑者等が任意に提出し若しくは置き去った物件を領置することができる。」と規定しています。
 また、法第102条(1)は、「委員会職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、公正取引委員会の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、捜索又は差押えをすることができる。」と規定しています。

8. 判決、審判例
ラップ価格協定刑事事件-東京高裁 平成5年5月21日判決
 「公取は、我が国における唯一の独禁法の運用機関として、独禁法違反の行為につき調査及び制裁を行う独自の権限を有しているが、独禁法に違反すると思われる行為がある場合は、これを調査し、当該違反行為の国民経済に及ぼす影響その他の事情を勘案して、これを不問とするか、あるいはこれに対し行政的措置を執るか、さらには刑事処罰を求めてこれを告発するかの決定をする裁量権を持ち、公取は、右のとおり、独禁法違反の行為につき、わが国における唯一の独禁法の運用機関として、広く国民経済に及ぼす影響その他の事情を勘案して、これに対する措置を決定すべきものであるが、一般的に独禁法違反の犯罪があると思料するときは告発すべき義務を課せられており、特に独禁法89条から91条までの罪については、公取の告発が訴訟条件とされていることからしても、ごく例外の場合はともかくとして、一般的には公取の行う告発は有効なものと考えられ、裁量権を逸脱する違法な告発はないというべきである」
 「独禁法による課徴金は、一定のカルテルによる経済的利得を国が徴収し、違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによって、社会的公正を確保するとともに、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために執られる行政上の措置であって、カルテルの反社会性ないし反動特性に着目しこれに対する制裁として科される刑事罰とは、その趣旨、目的、手続等を異にするものであり、課徴金と刑事罰を併科することが、二重処罰を禁止する憲法39条に違反するものではないことは明らかである。」

石油連盟刑事事件-東京高裁 昭和55年9月26日判決
 「前記全事実によれば、同被告人は、石油業法の下で、あるいは通産省の直接指導により、あるいは通産省の指導、要請に基づく石油連盟の協力措置として実施されてきた生産調整の歴史の流れの中で、需給委員長に選任され、生産調整を正当な職務と信じ、何ら違法感をもたずに、誠実にその職務を遂行してきたものと認められるのであって、その違法性を意識しなかったことには右のとおり相当の理由があるのであるから、同被告人が本件各行為に及んだことを刑法上非難し、同被告人にその責任を帰することはできない。したがって、同被告人にはこの点において故意即ち「罪ヲ犯ス意」がなかったと認められる」

石油価格協定刑事事件-最高裁 昭和59年2月24日第二小法廷判決
 「石油業法に直接の根拠を持たない価格に関する行政指導であっても、これを必要とする事情がある場合に、これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によって行われ、『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という独禁法の究極の目的に実質的に抵触しないものである限り、これを違法とすべき理由はない。そして、価格に関する事業者間の合意が形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であっても、それが適法な行政指導に従い、これに協力して行われたものであるときは、その違法性が阻却されると解するのが相当である。」
 「しかしながら、・・・被告人らは、石油製品の油種別値上げ幅の上限に関する業界の希望案について合意するに止まらず、右希望案に対する通産省の了承の得られることを前提として、一定の期日から、右了承の限度一杯まで各社いっせいに価格を引き上げる旨の合意をしたものであって、これが、行政指導に従いこれに協力して行われたものと評価することのできないことは明らかである。したがって、本件における被告人らの行為は、行政指導の存在の故にその違法性を阻却されるものではない・・・」

下水道事業団談合事件-東京高裁 平成8年5月31日判決
 「以上のルールの見直し及び改訂の状況と受注調整の実施状況とを併せ考えると、本件においては、受注調整による取引制限は、各年度ごとに独立して行われていることは明らかであり、各年度におけるルールの改訂からドラフト会議までの一連の作業をもって取引制限の実行行為と見るのが相当というべきである。したがって、平成2年における受注調整にルールの合意により犯罪は既遂に達し、その後の行為はすべて不可罰的事後行為であるという弁護人らの主張は、採用することができない。」

東京都水道メーター事件-東京高裁 平成9年12月24日判決
 「独占禁止法89条1項1号の不当な取引制限の罪は、・・・一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる事業活動の相互拘束行為とその遂行行為とを共に実行行為と定めている。また、その罪は、明らかに自由競争経済秩序を維持することを保護法益としている。・・・さらに、事業者が不当な取引制限行為をした場合に課する課徴金は、原則として、その行為の実行としての事業活動を行った日からその行為の実行としての事業活動がなくなるまでの期間を基礎としてこれを算定するものと定められている(同法7条の2第1項)。これらのことからすると、その罪は、右のような相互拘束行為等が行われて競争が実質的に制限されることにより既遂となるが、その時点では終了せず、競争が実質的に制限されているという行為の結果が消滅するまでは継続して成立し、その間にさらに当初の相互拘束行為等を遂行、維持又は強化するために相互拘束行為等が行われたときは、その罪の実行行為の一部となるものと解するのが相当である」

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