御器谷法律事務所

差止請求訴訟への文書提出命令の特則の導入等

1. 差止請求訴訟への文書提出命令の特則の導入
(1)  独占禁止法に基づく差止請求訴訟では、相手方の不公正な取引方法を立証するために、その相手方の手元に存する経理帳簿類、契約書、仕入帳、納品書、原価計算書類等の文書が必要となってきます。
ところが、このような文書は、民事訴訟法220条4号においては「技術又は職業の秘密に関する」(営業秘密)文書又は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己使用文書)として提出義務がないとされています。
 そこで、平成21年の独占禁止法の改正よって、法83条の4を新設し、知的財産法(例えば特許法105条等)にならって、正当な理由に基づき提出を拒むことができるとき以外は、侵害行為を立証するために必要な書類の提出を命ずることができるようにしたのが「文書提出命令の特則」の導入と呼ばれるものです。
 これによって、当事者は、証拠収集の方法が拡充され、差止請求訴訟において民事的救済の拡充を図ろうとしたものと評価されます。
(2)  改正後の独占禁止法83条の4第1項は、「裁判所は、差止請求訴訟において、当事者の申立てにより、その侵害行為を立証するため必要な書類の提出を当事者に対して命ずることができる。ただし、その書類の所持者がその提出を拒む『正当な理由』があるときはこの限りでない。」との趣旨を規定しています。
 これは、営業秘密に関する文書や自己使用文書であっても、一定の範囲で独占禁止法83条の4に基づき文書提出命令がなされうることになるものと考えられています。(注1)
 また、提出を拒否できる「正当な理由」の有無については、特許法105条につき、「情報の性質や秘密性の度合いを考慮しながら、開示することにより文書の所持者が受ける不利益と、文書が提出されないことにより申立人が受ける不利益とを比較衡量して判断されていた(利益衡量説)。」としたうえで、「具体的にいえば、従来、侵害行為の立証に不可欠な文書の場合にのみ「正当な理由」がないとされ、それ以外の場合には文書提出命令が発令されない傾向にあったようであるが、秘密保持命令制度の導入により、利益衡量により文書提出命令が発令される場合が広がると思われる。」との指摘があります。(注2)
 さらに裁判例としても、この「正当な理由」の解釈の参考として特許法105条に関して、「本件各文書に他の医薬品についての同業他社の得意先、売上、経費率、利益率が記載されているからといって、そのことから本件各文書が当然に『秘密として管理されている事業活動に有用な技術上又は営業上の情報』といえないのみならず、仮にそのような情報を含んでいたとしても、それが相手方において特許権侵害と主張する薬品の製造販売行為により抗告人が得た利益を計算するために必要な事項を記載した文書と一体をなしている以上、少なくとも相手方との関係においては営業秘密を理由に当該文書の提出命令を拒む正当な理由とはなり得ない。」と判示した裁判例があります。(注3)
(3)  独占禁止法83条の4第2項は、「裁判所は、前項但書の『正当な理由』の有無の判断をするため必要があると認めるときは、書類の所持者にその提示をさせることができる。」との趣旨を規定しています。
この手続は、特許法105条2項等にもあり、「イン・カメラ手続」と呼ばれています。
 また、裁判所は、このイン・カメラ手続において、「正当な理由」の有無について意見を聴く必要があると認めるときは、申立人の当事者等に対して、その書類を開示することができるものとしています(同条3項)。
 なお、この文書提出命令の特則やイン・カメラ手続等は、検証の目的の提示にも準用されます(同条4項)。

2. 差止請求訴訟への秘密保持命令の導入
(1)  上記のとおり改正法により差止請求訴訟に文書提出命令の特則が導入されたことにともない、営業秘密が記載された文書が訴訟に提出されることもありうることとなりました。
 そうすると営業秘密を保護する趣旨から、この営業秘密が記載された文書を当該訴訟の追行の目的以外での使用を禁じ、又、命令を受けた者以外への開示を禁じる旨を裁判所が命ずる「秘密保持命令」という制度を導入し、差止請求訴訟における当事者の証拠の収集の拡充と営業秘密の保持の要請という両者の調整をはかったものと考えられます。
(2)  独禁法83条の5第1項は、「裁判所は、差止請求訴訟において、準備書面や証拠に営業秘密が含まれ、この営業秘密が訴訟の追行の目的以外の目的で使用され又この営業秘密が開示されることにより当事者の事業活動に支障を生ずるおそれがあり、これを防止するためこの営業秘密の使用又は開示を制限する必要があることに疎明があった場合には、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人、補佐人に対し、営業秘密を訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができる。」との趣旨を規定しています。
 これを「秘密保持命令」と呼んでいます。
 そして、この秘密保持命令に違反した者は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、又はこれを併科されるものとされ、これは親告罪とされています(法94条の3)。また、法人につき3億円以下の罰金刑の両罰規定の適用があります(法95条第3項)。なお、刑事罰のみならず、民事上の損害賠償責任も生じます。
また、秘密保持命令については、その要件を欠き又はこれを欠くに至ったときは、秘密保持命令の取消の申立につき規定が存します(法83条の6)。

3. 訴訟記録の閲覧等の請求の通知
 独占禁止法83条の7第1項、第2項は、「秘密保持命令が発せられた訴訟に係る訴訟記録につき、民事訴訟法第92条第1項の閲覧等制限の決定があった場合において、秘密保持命令を受けていない当事者から秘密記載部分の閲覧等の請求があるときは、裁判所書記官は、秘密保持命令の申立てをした当事者に対し、直ちに閲覧等の請求があった旨を通知しなければならない。この場合、裁判所書記官は、この請求があった日から2週間、その請求をした者に秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。」との趣旨を規定しています。
 つまり、この規定により、秘密保持命令の申立人は、この2週間の間に、閲覧等の請求をした当事者を秘密保持命令の名宛人に追加するか否かを決断することになります。(注4)
 なお、独占禁止法に規定する秘密保持命令と民事訴訟法第92条第1項の閲覧等制限の規定は、別個のものですので、申立人は、営業秘密が記載された準備書面や書証を提出するときは、民事訴訟法に基づく閲覧等制限の申立を別個にしておく必要が指摘されています。(注5)

4. 改正独占禁止法の適用
 新独占禁止法83条の4から7までの規定、つまり、差止請求訴訟における文書提出命令の特則、秘密保持命令、その取消し、訴訟記録の閲覧等の請求の通知の各規定は、改正法の施行日以後に提起された訴えについて適用され、施行日前に提起された訴えについては、なお従前の例によるものとされました(改正法附則15条)。

(注1)伊藤憲二、宇都宮秀樹、大野志保著「平成21年改正独占禁止法のポイント」(商事法務発行、2009年7月11日初版第1刷発行)126頁
(注2)部眞規子「秘密保持命令とインカメラ手続」83頁、84頁−牧野利秋、飯村敏明、三村量一、末吉亙、大野聖二編「知的財産法の理論と実務、第2巻[特許法U]」(新日本法規出版発行、平成19年6月21日発行)
(注3)東京高等裁判所平成9年5月20日決定、判例時報1601号143頁
(注4)長澤哲也編著「平成21年改正独禁法の解説と分析」(商事法務発行、2009年8月20日初版第1刷発行)205頁
(注5)前掲(注4)長澤哲也編著「平成21年改正独禁法の解説と分析」208頁

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